第20話 人の口から聞ける理由は残酷性を秘めている
「けど、なぜ人を殺そうとしたのですか?」
僕はそのようにオニヒメさんに言った。
その言葉がとても残酷で心を傷つける刃を突きつけるものという事を知りながらも、僕は知りたかった。
「………聞きたいのですか?」
「えぇ、理由を一度でも良いですから吐き出した方がよろしいかと思いましたから」
それがどれほどの瘴気であろうとも、猛毒であろうとも、僕は受け入れるつもりだった。
僕がそう言うと、オニヒメさんは淡々と語りだす。
「まずはこの力の説明をした方がよろしいですね」
「力……もしかして、先程の鬼、の事でしょうか?」
鬼。
先ほどオニヒメさんが見せた凶暴性の片鱗。
僕が何かをして押さえ付けた力であるが、実際に、襲われるという経験を得てしまうとその力は恐ろしいものだと分かる。
「本当はこの力は【鬼】では無いのです」
「………え?」
「【鬼】では無いのです」
オニヒメさんから出てくるその言葉に僕は呆気ない声を出す。
額に角を伸ばし、先程まで鬼だと思っていた力が鬼そのものでは無いという事実を聞かされた僕にとっては、不思議にならなかった。
「では鬼では無いとしたらその力は何ですか………?」
「………元々、この力は【星の力】なのです」
「星………?」
「えぇ、本来は人が星を見ることによって生み出された星霊の一つでしたが、神や妖、自然の恐れ、多くの物によってこうされた力が私のこの力なのです」
「それが鬼の力」
「その結果、いつしか私の中にある力は神格化され、分霊の一体としてこのような物が作られました。恐れ、敬い、信仰する。長い年月と共に成長し、人が星を見続けることによって力が強くなる。それが今の私が抱えている力であり、この村に宿る力なのです」
信仰心。
人が知識を得て、神や精霊と言う概念を信じることによって生み出される信じる力。
この力の前では人の王の権力はものともせず、民衆の形作られた
実際に、僕はこの目で何度もの英雄と言う存在を見て来た。
人から担ぎ上げられた者、望んでなった者、呼び応じた者。
勇者も賢者も魔女も鍛冶師も冒険者も、多くの人たちが人によってつくられた伝説を見て来た。
だからこそ、オニヒメさんの言う内容に信憑性が湧く。
「ですがいつのひか、
それが怖くて怖くて、と呟き顔を下げるオニヒメさんは、自らの真っ赤に濡れた手を眺め、自らの事を恐れていた。
あぁ、やっぱり、
自らに身に着いた未知な力に恐ろしくてたまらない。
手に入れた存在に愛を抱く事は無く、ただ、嫌悪する。
その内容に僕達は同情の余地を与えているのかもしれない。
「そしたら、いつの間にか
「そのための殺人………?」
「えぇ、えぇ! ただ
あぁ、その証拠の様に残されたのがあの
完全な殺人欲求が悪化し、容赦なく襲い掛かり、獣のように血肉を散らす。それが鬼の力に密かに隠された、いや、魔物として恐れられた人の影響と言うのか。
「怖い怖い………怖かった。人を殺すことが、何よりも怖かった。ですけど、人を殺していくたびに、私の中では、人を殺すことに躊躇いが無くなったのです」
そう最後に淡々と宣言するオニヒメさんは先程の様な哀愁感じる表情から、どことなく恐怖感を感じさせる妖艶な笑みを浮かべる。
「人を殺して殺しつくして、そして、今この場に居ます」
「………」
「でも結局の所、
妖艶な笑みを抑えるとオニヒメさんは憂鬱そうな表情をしながら、そう語る。
だが僕には密かにこの様なことを思ってしまう。
いいや、それは人が作ったんじゃない。
人が憧れ、掴もうとしたものだ、と。
弱い民衆は弱い民商の味方になる者が欲しがり、選び、捨て、前に進む。
犠牲となった者を忘れる時もあれば忘れずに、犠牲になった者たちの気持ちを抱え進むことも。
「大丈夫だと思います」
「え?」
ふと漏れる言葉。
意味があるとは思えないほどの、簡略的で味気ない言葉。
けど、人の不安を消しさる安堵の言葉。
僕の口からはおそのような言葉が漏れ出すと、オニヒメさんは先程までの憂鬱な表情が消え去り、僕の前には鳩が豆鉄砲を食ったよう表情をしていたオニヒメさんの顔があった。
「理解される事は無いと思いますが、大丈夫だと思いますよ」
確信の無い言葉。
けれども、僕はその確信の無い言葉を吐き続ける。
意味が無かろうと、誰かにとって意味に変わるのなら、毒でも瘴気でも吐き続けてやる。
それが僕の選んだ道の一つだ。
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