第19話 婚約はしません!
急に倒れたオニヒメさんの体を僕がさせ、抱え上げると、ゆっくりとオニヒメさんはその瞼をゆっくりと開く。
「ん、んん………一体、何が?」
意識を取り戻したオニヒメさんは、先程の様な凶暴性は無く、出会ったばかりのおとなしい姿のオニヒメさんに戻った。
「え、えっと、説明すると長くなるんですか………」
「………!! ヘクトパスカル殿⁉ なぜ、このような所に⁉」
「え、今になってですか⁉」
衝撃。
意識をはっきりと取り戻したオニヒメさんは急に僕の顔を掴んだかと思ったら、顔を近づけそのような事を叫ぶ。
にしても少しだけ思考のラグが感じられたのだが、そんな事は気にする必要はない。
ただ一つだけ言うのなら、オニヒメさんの顔が目の前にあると言うのが案外、問題だったりする。
一言言うのなら、恥ずかしい。気持ち悪く言うのなら、花のような匂いと血のような匂いがする。
「生きておられますか⁉ 首が繋がっていらっしゃいますか⁉ 四肢はきちんとありますか!?」
「は、はい、大丈夫ですからそんな顔を近くでべたべた触れないでください!」
僕はそう言いながら必死に、僕の体を触れるオニヒメさんを落ち着かせる。
確かに何度も四肢が飛んだり、首が飛んだりなどの幻覚が見えたけど、きちんとついていますよ!
「はっ、すみません! つい、はしゃいでしまい、殿方の体を………」
すると、オニヒメさんが僕の体から離れじっと僕の体に触れたその手を眺める。
そんなオニヒメさんの傍らで、やっと離れてくれたと安堵する僕だったが、何故かオニヒメさんは何も言わずじっと先程まで僕の事を触れていたその手を静かに眺め続けている。
「す、すみません」
「え、いや、大丈夫ですよ。別にそう言うものでは………」
「すみませんが、
「え?」
うん?
何やら会話が噛み合わない。
僕にとってはさっきの謝罪に関してなのだろうけど、オニヒメさんにとっては別な話になっている気がする
ま、まぁ、そんな事を気にせずに話を続けないと………。
「え、あぁ、そうですけど………あんまり気にしていませんよ?」
「あぁ、
「あ、あのぅ?」
「もう、このような事をしてしまえば後戻りはできません」
「いや、できますけど………話聞いてます?」
「でしたら、
「本当に話聞いてます⁉」
急な伴侶宣言。
これにはさすがに僕もびっくりする。
話が繋がっていないと思っていたけれど、ここまでとは。これ以上のフォローは僕であれど無理なのだけど、先程の凶暴な状態でなくとも、これ程の異常性。
関わるだけでも一苦労する。
「えぇ、えぇ、聞いていますよ! 式はいつにしましょうか⁉」
「本当に聞いている!?」
違う。違うんだ。誰も式の話なんてしていない。
僕はただ、現状の話をしたいだけなんだ。状況把握の為に少しだけ話がしたいのに、この人は全くと言っていいほど話を聞いてくれない。
「僕がオニヒメさんと話がしたいのは、貴女が少し心配だったから話をしたかっただけなんです!」
「え、既に将来のことも考えて……」
「どうすりゃいいんだよぉ⁉」
叫ぶ。つい大きな声で叫んでしまう。
叫ばなければやっていられない程。
「それほど、
「う、うん、そうだけど、そうじゃないんだ。心配したのは事実だし、オニヒメさんの事も考えたのは事実だけど」
「では婚約‼」
「ち・が・い・ま・す・!」
このやり取り何度目だろうか。
もう既に三回ほどやっているような気がするんだけど……、本当に気のせいだろうか。
とはいえ、ただ考えているだけではいけないと感じた僕はすぐに、話を元に戻そうとする。
「で、では、これはどういう事でしょう?」
「あぁ、やっと話ができる状態になった」
「?」
僕がそんなことを言うと何故かオニヒメさんは不思議そうな表情を受けるが僕は何も言わない。
まるで、先程の暴走状態が普通かと言わんばかりの物であり、僕自身、そのような事を思いたくはなかった。
「えっと、オニヒメさんが先程までの事を覚えていますか?」
婚約の事を覗いて。
「婚約の事ですか? それなら、一度、お父様に………」
「違います」
やめて、ここで当主様を挟んだ瞬間、僕が僕じゃなくなるほどボコボコにされちゃう。
まだ、人の形を取っていたい。
と言うか生きていたい。ミンチとか、食肉店に発送されたくはない。
「では………
「あ、あぁ、そうですね。その時の記憶はありますか?」
「あるかないかといわれれば、この惨劇を見てしまえば………」
「あ……あぁ、そうですね」
先ほどまでのやり取りとは全く逆の光景が辺りには広がっている。
陽気なやり取りとは真逆で血と死臭が広がる光景が今の僕の目の前に広がり、先程までの陽気な雰囲気は圧倒言う間にしんみりとした空間に変わる。
「覚えています。血の香り、死体の山々、まさに屍山血河の光景が今にも目に浮かびます」
「………」
分かる。歩けば血潮の香りがする存在は皆、このような悲しげな瞳か狂気を含んだ楽しんでいる瞳しかしない。
その二択であるからこそ、彼女は前者であることが分かり、その力の使い方を上手くできないという同情感さえも覚えた。
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