第18話 影の中は鬼がいる

「………え?」


 だが僕の目の前に広がっていた風景は空中でKATANAを止めているオニヒメさんの姿があった。


「な、ナニコレ!?」


 その状況は、オニヒメさんさえも認識できていないことで、必死に僕の前でKATANAを振ろうとしていた。押したり、又は引いたり、必死にKATANAを動かしている姿は可愛らしく見え、僕は一瞬だけ頬が緩む。

 とはいえ、この状況の説目に未だに納得いっていない僕は恐怖と安堵感に包まれながらも不思議とその状況を見ていた。


「ふー、ふー、どかせ! どかして! じゃないと殺せない!」


 粗い息を吐きながらそう言うオニヒメさんに、僕は戸惑いながらも今目の前で起きている状況に手も足も出せなかった。

 なぜなら、僕でさえも知らない存在わざが目の前に広がっていて、僕自身、どう扱えばいいのか理解できていなかった。


 いつもなら指をほんの動かしただけで制御できるのに、攻撃の為に使って、いたというのに、守るために使うとなると、制御ができなくなる。

 指をほんの動かしただけで、ぴきぴきっ、と不吉な音が鳴る。

 オニヒメさんの持つKATANAの音か、それともオニヒメさんの軋む体の音か、又は彼女を押さえ付ける僕の体の音なのか、僕自身が理解できない物であり、ヴォ区がほんの少し指に力を入れるだけで、何かが壊れると言うことが証明されるようだった。


「どかしてください!」

「無理ですっ! それに僕自身制御できていないんですよ!」


 だがそんなことを考える時間は何一つ無い。

 目の前に佇んでいるオニヒメさんに集中していないと、僕がオニヒメさんに斬られるし、斬られたら、確実にオニヒメさんは後悔する。

 そんなオニヒメさんを後悔させないために、僕は今この状況を止めといて、何かを行動を示さなければいけなかった。


 けれども、行動。

 行動とは何をすればいいのだろうか?

 力を入れる事? もしそうなれば、どちかが可能性があるし、行動に移しにくい。

 力を抜く事? こちらも、先程と同じでどちらかがことを指している。行動するには少々、難しい。


 とはいえ、何もしないままも宜しくはない。

 僕は今、潜入しているのに、無駄に物音を立てるのは周囲に人を集めることになる。

 そうなれば、せっかくの隠密性の高い潜入が無駄になる。


「ふー、ふー、早く。早くして。早く殺させて!」

「ぐっ、力が強く⁉」



 だがこんなことを考えている間に、徐々にオニヒメさんは力を強めていき僕の目前までにKATANAを押し込んでくる。

 ほんの少し、たった一センチ前に進むだけで、僕の鼻っ面にその刃が刺さりそうなほどの威圧感と実際に目の前にある刃への恐怖感が、その思考は事実であると認識させる。


 どかせ、どかせと、呟くオニヒメさんの瞳は徐々に真紅に染まっていき、月の光に照らされる真紅の角は艶やかに輝いている。

 月の様に金色に変わっていく網膜を眺めながら、オニヒメさんの口元からは一筋の銀の糸がたらり、と垂れる。


 あぁ、なんて妖艶なのか。


 必死に力を制御しながらも、僕はそんなことを思う。


「ぐぅ!」


 だがすぐ、そんな疚しい気持ちは消える。

 目の前に置かれている生命の危機には、疚しい気分なんて何一つ抱けない。

 もし、この状況に抱けるというのなら、その人は十分強いと思える。確かに生命が子孫繁栄には必要されている器官の一つではあるが、実際に人間が生命の危機を受けているこの場ではそんなことは考えられない。


「どかして、ねぇ! どかして!」


 とはいえ、実際にどうしたものか。

 そんな時だった。


 どくん、


 すると、目の前で必死に叫ぶオニヒメさんを眺めていると、体の中で大きな鼓動を感じる。

 熱い感覚と共に、僕の脳裏に一筋のきおくがながれこんでくる。



「な、なにこれっ?」


 記憶と共に体の隅々に蔓延る糸は僕に向かって、身体を上手に動かしていく。

 指の力加減はまるで先ほどと違い優しく、自然で、赤子を愛でる母親の様に糸はオニヒメさんの中に入り込んでいく。

 その糸は僕の目の前で、オニヒメさんの握るKATANAを止めながら、オニヒメさんの背後には僕の操る糸は入り込んでいく。


 キンッ、


 瞬間、何かが繋がるような感覚に襲われる。

 何かが繋がった瞬間、大きな脱力感に襲われるが、それを必死に耐え糸の制御を行う。何かに繋がったというのだから、僕がきちんと最後までやり通さなければいけない。


「がっ」


 ゆっくりと繋がった所から糸を奥に奥にと入れていくと、オニヒメさんは大きな嗚咽声を出しながら、身体を強く膠着こうちゃくさせる。

 その姿はまるで、毒に苦しむ旅人の様に握っていたKATANAを静かに離し、オニヒメさんは自らの首を掴み始める。


「ん?」


 だが僕はそれを見ても惹かれるかのように、指に少しずつ操作をしていくと、何やら核のようなものに触れる。


「………んっ! んん! あっ!」


 核のようなもの触れると、オニヒメさんは苦しむように首を絞めたり、肩や体を強く握っているが、僕が必死に核に触れる度に徐々にその声音は変わっていき、いつの間にか喘ぎ声の様なものに変わった。


 プチンッ、


「!!」


 来た!

 核のようなものに触れ続け、数分が経つと核のようなものを縛り上げ、核の中へと入り込む。

 核は僕に抵抗するように、暴れ始めるが僕はそれでも抵抗させない様に核に入り込むように糸を縫い上げていく。


 ぎぎっ、ぴたっ。


「ふぅ、終わったかな?」


 そして、抵抗が無くなり、安堵した瞬間、オニヒメさんはふらり、と体を傾かせ床に倒れ伏す。

 僕もその姿を見た瞬間、能力を解き、オニヒメさんの体を抱き寄せた。



「大丈夫ですか!」

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