第16話 不法侵入という事は自覚している

 わけでもなく。

 草木が眠り、空には大きな月が眠る僕達の事を見つめている。

 虫の音も少なく、鳥の声も無い。


 そんなか、僕は一人静かにオニヒメさんのいる屋敷の近くにいた。

 面白そうに見ている月から逃げる様に、草木の陰に入ると本お隙間から屋敷の事を眺める。


「………警備、はいるんですね」


 屋敷の辺りの事を定期的に周回している警備をしている衛兵のような男性が、一人、二人、外を警備している人だけでも五人近く、屋敷内でも見える範囲では四、五人ほど見える。


「さすがに厳しいかな………」


 オニヒメさん、いや当主様ときちんと話をしたいが為にこのような行為に出てしまったのだが、今になって、半ば後悔の気分に陥りそうになる。

 とはいえ、一度決めた事をここでやめてしまえば、胸の中にある違和感は払拭されない。その為にも、この警備の隙をついて侵入しなければいけないのだが、盗賊シーフのように素早く屋敷内に入れるはずは無いし、鍵開けのような繊細の記述は持っていない。

 勉強したことはあるけど。


 とはいえ、この状況の打開は重要だよね。

 まずは、門の前にいる警備担当の衛兵をどうにかして誤魔化さなければいけない。

 何気ないただの一般人に見えているが、その中身は屈強な雰囲気をほのかに感じさせる男性。無駄に勇者パーティにいて、|勇者《かれ〕に関する人たちを見てきたからこそ、誰がどのような強さを持っているのかを分かる。


「となると、力を使わないといけないのかな………」


 だからこそ、僕が持つこの力を使わなければいけないのかと思ってしまう。

 けれど、使わないとここを突破できないような気がする。


「………」


 ほんの少しの考える時間はとても長く感じさせ、一分が数十分に感じる程、僕の思考は回り、決断を迫られていた。


「よし、やろう。力は、使われなければ、力じゃない」


 月夜の光から隠れる様にその述べた僕は、静かに立ち上がり草木を抜ける。


『マリオネット』


 僕が警備の衛兵にそう言いながら腕を伸ばすと、僕の指先から月夜の光に照らされ一瞬だけ蜘蛛の糸のような物がゆらりと舞い、警備の衛兵に絡みつく。

 衛兵の人はそんな、僕の糸に気づかず、大きな欠伸を上げながらただぼーっと、立っている。

 だがこれで十分だ。長い年月を掛け、このチカラジョブと付き合ってきたからこそ、使い方の一つや二つ、分かってくる。

 

 僕はそんなことを思いながらも、指をほんの少しだけ動かすと、ぴくり、と警備の衛兵は体を硬直させ、だらんと意識が消える様にぼーっと呆ける。


「よし、完全に入ったな」


 遠目からその状タウを確認した僕は、草木の陰から抜け、堂々と屋敷の門の方に向かい、警備の衛兵の人の前に立つ。

 だが、彼の目の前に立っていても警備の人は何も言わず、僕の事を見つめている。


 あぁ、怖いな。


 そんな事を思いながらも、僕は静かに警備の衛兵に「門を開けてください」と静かに言うと、衛兵は「分かった」と生気のない言葉で、懐から鍵を出すと、そのまま、門の鍵を開ける。

 門の鍵が開けられたことを確認した僕はそのまま、門を静かに開くと、何事も無かったかのように門を閉じて、屋敷の邸内を観察する。

 鑑定士として培った観察眼が今この時に使われるとは僕自身思っていなかったが、僕が今、必要なのだと思っているから僕が用いる能力を最大限使って見せる。


「よし、今だな」


 観察眼で大体の人間の動きをは把握すると、僕は静かに屋敷の邸内を動き回り、鍵の開いている窓の扉から入る。

 とはいえ、こんなに無警戒に空いている窓に少しの警戒心を抱きながらも僕はゆっくりと体を上手く曲げ、関節に余計な負荷を変えない様に侵入する。

 侵入する際も相手側にこちらの事を悟らせない様に静かに、気配を殺して余計な音を立てない様に忍び足をする。


「にしても、僕………どこに歩いているんでしょう?」


 数時間前、この場にいた時にあまり歩き回ったわけじゃないので、何がどこにあるのか、自信がどこを歩いているのかさえも分からない。

 廊下が暗く、月夜の光で物事を見るには少し辛い。

 手元に一つや二つほど灯りが欲しいのだが、そんなものをこんな所で使うとなるのはただの馬鹿である。


この力マリオネットはあまり使いたく無いんだよね………」


 一瞬、頭の中で先程、警備の衛兵と同じようにここに通り掛る人に傀儡マリオネット状態にするのは宜しくない。

 あれはしている側が気持ちよくなるだけど、僕はどことなく気持ち悪さと苦手意識がある。もし、好きになれと言われたら僕は絶対使いたくない。


「けど、使わないと無理かもしれなさそう………」


 目の前に広がるは果てが見えないほどの陰に包まれており、僕がもしそこに踏み込むとしてもそこから出られる気がしない。


「………」


 行くか、行かないか。今、僕の目の間には二つの選択肢がある。

 行って、果ての無い迷路に迷い込むか、それとも行かずに永遠と胸の中にあるもやもやを抱え込み生きて行くか。

 迷い込めば闇の中に消え、未来がどうなるか分からない。

 だが逃げれば、未来が明確化されている中で自身を殺すほどの自傷行為に包まれ、自らの存在が許せなくなるかもしれない。

 この二択だ。

 明確化された未来か、そうではない博打の様な未来か。

 

「………決めた。進もう」


 ほんの少しの時間。

 迷い、苦しみ、歯を強く噛みしめながら闇の中に入る。

 その先にあるのが何か分からない。けれども、僕の選んだ選択肢の先はどちらにしても一手先の明確化された未来。

 それなら、一手も二手も、先の無い真っ暗な未来を選んだほうがいい。

 賽を振るのはいつも、先を見ているものとは限らないから。


 この考えは冒険者としてか、ただの愚者の考えか、またはとしての考えか。僕には分からない。

 けれども、闇の中にある光は少し綺麗に見えた気がした。

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