第14話 父親
この空気の中でプルターニュさんが顔を見せると先ほどまでの雰囲気が無くなり更に、気まずく冷たい雰囲気が包まれる。
「誰だね、君は」
ぽかん、と呆気ない表情を見せていたプルターニュさんに当主様は一言述べる。
その言葉を聞いた瞬間、プルターニュさんは、あぁ! と手をポンッ、と叩くとご当主様の方へと顔を向けるとこう言い始めた。
「これは、ご挨拶申し遅れました。私は、カンブリア学院の数学学者をしております。プルターニュ・イスカリアと申すものです」
「プルターニュ・イスカリア………イスカリアだと?」
すると、当主様はプルターニュさんの言葉に反応を示す。
それに、カンブリア学院と言えば『天才』と言われる【天災】が集められ数多の国家の中枢に点在させる人材を育成する場所。通称、《星と怪物の鳥籠》なんて言われている所じゃないか。
僕も実際にカンブリア学院出身の人を見た事あるけど、プルターニュさんのようなフレンドリーな人物では無い事が記憶にある。何というか近寄りがたい。
「もしかして、数学屋か? 貴様」
「んー、あまり、その名前で呼んでほしくは無いですが、そうですね」
「!!」
数学屋?
当主様がそのような事を言うと、プルターニュさんはどこか気まずそうな表情と言うべきか、それとも照れ隠しか、どちらにしても言って欲しくはなかったと嫌な表情ををする。
その
「では、なぜ、そのような方が我が屋敷におられるのでしょうか? 確か、貴女は東欧に向かっているとお聞きになりましたが………」
「む、そうですね。確かにその情報も間違ってはいませんが、その情報は私が和国に行くために流した
「!!? では、更に疑問に抱きますね」
「む、そうですか………そうですね、少し興味深い事を聞きまして」
「ふむ、それは何でしょうか?」
「………鬼の噂を御存じでしょうか?」
「!?」
瞬間、プルターニュさんは誤魔化しもせずに、直球にそのような事を言う。
誤魔化しの無い言葉が当主様に一瞬だけ、戸惑いと困惑の表情を見せる。
「……どこで聞いた?」
「どこと言われましても村の中で嫌と聞きますよ。鬼の話題」
「………」
当主様はぎりっ、と歯ぎしりを鳴らすと、ぎっ、と鋭い眼光でプルターニュさんの事を睨みつける。
「一体、何を隠しているのか分かりませんが、その噂がここからきていることから分かっています」
プルターニュさんがそう淡々と説明すると、当主様は更に苦虫を噛んだような顔を続ける。
こうしてみると、本当にプルターニュさんの方が立場が上だと思ってしまう程に淡々と、口を動かしている。その姿にはどことなく余裕があるような物が、こんなことがいつもあるかのような、そんな喋り方だった。
素早く敵の意表を突き、徐々に追い詰めていく諸法。見ているだけでも目に奪われるもので素晴らしいものだった。
にしても、本当にすごいなぁ。勉強になる。
「………でしたら、知っているのであるのでしたら、出て行ってくれませんかな?」
「? 先の話を聞いていましたか?」
「えぇ、ですから知っていようとも知っていなかろうとも、私共には関係はない。今すぐ出て行って欲しいです」
「という事は、鬼の話は」
「黙れっ!!」
「「「!!?」」」
すると急に当主様が大きな怒号を上げる。
当然その怒号に、辺りにいた僕達はびくりと、身体を揺らす。
当主様の表情はまるで、自らの病気を隠すかのような苦しそうな表情をしており、その表情を視た瞬間、僕はこんなことを思った。
彼は自身の保持の為にでは無く、愛するものを守るために、尊厳を傷つけてなお愛する人を守っている。
かつて僕の前でもそのような手法を取って、殺された魔物もいたのだから、人にもそのような物がいても可笑しくない。
でなければこんなに必死にならないし、その瞳には【
「出て行ってくれ! 今すぐに! この場から! この屋敷から!」
「わ、わわわ」
そうして、僕とプルターニュさんは当主様に押されるがまま部屋から、屋敷から追い出される。
「もう二度と来ないでくれ!」
バタン、と大きな音を立てながら扉が閉まられると、僕達は門の前で呆然としていた。
まるで嵐が過ぎ去ったかのような怒涛な展開に、少々、僕の頭の中では困惑が隠せなかった。
「どうしましょうか」
「どうしましょうか、と言われましても何ができますかね?」
「………そうですね、よくよく考えてみたらないですね」
だが隣で尻を着けているプルターニュさんは、呑気そうにそのような事を言うと平然とした顔で立ち上がり、僕の横に立つ。
これ以上の事はもうできないし、あの当主様に目を付けられている以上、何かできるわけが無いし、もしかしたら、屋敷に近寄ることもできないと思われる。
「まずは、宿に戻ってゆっくりしましょう」
「あ、はい」
プルターニュさんに言われるがまま、僕達は寝泊まりをしている宿に向かうが、僕は内心、もやもやが包んでいた。
オニヒメさんのこともあるけど、当主様の事もある。
鬼の噂とはいったい、鬼とはいったい、僕にはどうにも分からない物だから気で考えているだけでも頭を痛めるような感覚に陥っていた。
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