第13話 ZISEI NO KU
「そうですか」
オニヒメさんはそう言うと、何も言わず、額に浮かべている角を引っ込め、静かにお茶を飲み始める。
「………」
「………」
沈黙。
再び、静かな時間が流れる。
けれども、僕はずっと思っていた。
鬼であろうとも人であろうとも、一緒ではないかなと。
別にオニヒメさんに同情を抱いたわけでは無い。けれども、少しだけ彼女の気持ちがわかるような気がした。
よく分からない力を生まれた時から持っていて、それを他人に言うことがとても恐怖で、言ったら皆に逃げられそうで、そんな気持ちが僕にもきちんとあった。
僕の
他人を操ることに特化しているからこそ、昔の僕は悪用していた時期が一時期あったけれども、それで大きな事件が起きた時、僕の持っている力がとても怖くなった時があった。
だからこそ、オニヒメさんの抱く気持ちは一緒なのかもしれない。
誰もに理解されない力。誰にも言えない力。
口にすれば恐れられ、疎まれ、利用しようとしてくる。
僕はたださ俺が怖い。
もしかしたら、彼女も一緒なのかもしれない。そうかもしれない。
けれども、
「オニヒメさんは綺麗ですよ。心も、体も」
多分、僕にはオニヒメさんの事はきちんと理解できない。
けれども、こんな言葉だけはあった。
「………貴女様が初めてでございます」
「え?」
すると、オニヒメさんは急にそのような事を言い出す。
一体、なんで、と思ってしまったが、オニヒメさんの表情を見ると黙り込んでしまう。
なぜなら、彼女はまるで姫林檎の様に頬を赤らめ俯いていたから、そんな表情を見てしまえばどのような反応が良いのか一瞬にして分からなくなった。
どうすればいい!?
ここからそうやって話せばいい!?
どの回答が一番正しいんだ!?
「あ、あの………」
「ひゃ、ひゃい!?」
ひぇ、変な声出た。
「えと、なんですか?」
「………何でもありません」
「そ、そうですか………」
あぁ、これは確実にオニヒメさんに機嫌を悪くさせた。
じゃなければあんなに顔を赤くしない。
多分、同情からの裏切り。それは誰であろうと深く傷つく行為だからか、オニヒメさんはそんなことが一番嫌いなのだろう。
ガラッ、
「帰ったぞ」
「!?」
「?」
そんな緊張感に包まれていると、急にどこからか野太い男性の声が聞こえ始める。
「む、誰もいないのか?」
すると、声はドンッドンッ、と大きな足音を鳴らしながら近づいて来る。
粗雑な足音であるが、声は僕にも分かるほど大きく威圧感の強い物であった。
バンッ、
「おい、誰も………誰だ貴様」
足音は徐々に僕達の方へと近づいていき、扉が開かれると僕の前には大きく風格のある男性が立っていた。
「………え、えっと」
「お父様、お帰りになされていたのですね」
お父様!?
この歴戦の戦士のような風格を持っている男性が!?
「あぁ、だが少し静かにしていろシャルロット」
「………」
「………貴様、何者だ」
僕が何も言わず呆然としていると、オニヒメさんの父君がずいっと顔を寄せてくる。
ひっ、さらに顔を近づけると、風格と言うか威風がある。
「え、えっと」
そんな彼は僕の必死にどのような言葉を選ぼうか考えているが、目の前にいる壁は僕のことを急かすかのように大きな体を更に僕の方へとのめり込ませる。
ほんの少しでもまともな言葉を選ばなければ、一瞬でも僕の体が壊れるビジョンしか見えない。もうそれは四肢が引きはがされ、肋骨が壊れた人形のようにバラバラになるビジョンが、そうならないためにもまともな回答を導き出そうとする。
Answer ver.1
『鬼の噂を聞きに来ました』
『あぁ、鬼の話を聞きに来た!? どこから聞いた!? 答え次第には殺す!?』
バキィ!
駄目だ。
正直すぎる。使用人さんでさえあんなに嫌な表情を見せていたのに、ここの家主に聞くとか、自ら死にに行くような物。
言った瞬間、引きちぎられる。
Answer ver.2
『友人なんです』
『娘に男の友人なんかおらん』
バキィ!
無理そう。
なら次は………、
Answer ver.3
『シャルロット様の友人であられます、プルターニュ様の使いの者でございます』
『知らん名だな。それに下辺であればこのような所におらん。嘘かもしれん。殺す』
バキィ!
嘘すぎる。
下手が過ぎるだろう。バレるに決まっている。
Answer ver.4
『少しそこで会いまして、上げて貰っています』
『娘がそんなことするわけないだろ! 〇ねぇ!』
バキィ!
まともな回答じゃない。
普通の人が初対面であって会話した程度で家に上げて貰えるわけが無い。
ましてや警戒心が高い娘さんのことだ、無い。
Answer ver.5
『娘さんを貰いに来ました!』
『〇ね』
純粋な殺意。
先の四つの例題よりも酷い。結果は予想したくない。
優しくてミンチだろうけど、それ以上の事を考えようとすると吐き気が止まらない。
今でも当主様がいられるのに、これ以上、胃酸を逆流させたくない。これでも必死に抑えているというのに。
「おい、何か言え」
ひゅっ、
空気が抜ける。
当主様が一言述べる度に僕の体の中から空気が吸い取られる。
まるで目の前にいるのが、今まであってきた
辺りの空気が僕の体から抜かれる度に、僕の体温が低くなり辺りの空気も冷たくなっていく。
うわぁ、こんな所で死ぬのかぁ。
しみじみとそんなことを思いながら、ZISEINOKUを読み始めようとした時、
バンッ、
「すみません。少し、遅れてしまいました………あれ?」
先ほどまでの冷たく苦しかった空気の中で、プルターニュさんの乱入で更に気まずくなった。
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