第11話 屋敷

「何をしているのです?」

「「「!!!」」」


 急にそんな声が響く。

 その声は、とても鮮明でありながら拘束力がある物だった。

 何かと思い、僕はプルターニュさんと女性が必死に掴み合っている扉の隙間を見る。


「貴女は?!」

「お嬢様! ですが!」

「良いのです」


 扉の隙間から見えたのは、神社で出会ったあの女性がいた。

 女性は、扉を閉めようとしている彼女にお嬢様と呼ばれていることから相当偉いことが分かるが、お嬢様!?

 未だに目の間の状況に僕は驚きを隠せない。


「開けなさい。綾子」

「ですが、お嬢様………」

「聞けないんですか?」

「!?」


 扉の隙間から垣間見える扉の先の状況に、僕は目を細めながら見てみるが、綾子と呼ばれる女性がなぜか怯えている。

 何で怯えているのかが、扉の隙間から見えない。

 プルターニュさんの体格が若干、僕の視界の邪魔に成って詳しい状況がつかめない。


「開けなさい」

「………分かりました」


 するとあちらでは解決したようで、綾子さんはぎぃ、と音を鳴らしながら扉を開ける。


「どうぞ」


 けれども、その表情には恐怖が目に見える程、凹んでいるようだった。

 一体、何に恐れているのか分からない。

 けれども、そんな僕たちは彼女の気持ちなんてわからない様にそのまま開けられた扉の中へと入る。


「いたっ!」


 だがここできちんとしないのが僕達。門に取り付けられていた扉は、僕にはほんの少しだけ腰を曲げる程度だったが、プルターニュさんにとっては小さかったもので、身体を屈まなければいけない程だった。

 そのせいで体感が掴めなくなったのだろう。見事にその額に綺麗に、扉の淵にぶつかる。


「どうぞ、お越しになられました、旅の方々。わたくしはここの屋敷の一人娘でございます。シャルロット・オニヒメと言います」

「これはご丁寧に誠にありがとうございます。私はプルターニュ・イスカリアと言います。そしてこちらの少年は………」

「ユラ・ヘクトパスカルと言います」

「イスカリア様とヘクトパスカルですね。でしたらわたくし自身が屋敷をご案内いたします。綾子、戸締りをよろしくね?」

「はい」

「ではこちらへ」


 僕たちはそのまま、オニヒメさんに案内されるまま邸内を進む。


「履物はこちらに置かれてください」

「あ、これは失礼しました」


 だが屋敷に入ろうとした瞬間、オニヒメさんにさっそく注意される。

 そうだ、こちらの文化では家に入る前にきちんと履物を脱がなければいけないんだった。書物でキチンとルールなどは目を通していたのに、ここで注意されるのはあまりにも文化人としては許されるものでは無かった。


「こちらにはどのような要件で?」

「この村で噂になっている鬼について耳にしまして、少しだけ興味がありお伺いしたのです」


 僕たちが玄関で履物を脱ぎ、再び案内が再開すると、オニヒメさんがそのように口を開く。

 すると、その返答に真っ先に答えたのはプルターニュさんで、流暢な言葉づかいでそのように答える。どうも半ば田舎者の僕には彼女らの世界に入り込むには少し難しかった。


「そうですか、でしたら諦めになることをお勧めいたします」

「え?」

「ふむ、それはなぜですか?」


 瞬間、空気が変わる。

 先ほどまで優しかった空気だったのに、オニヒメさんのその一言で真剣な雰囲気が舞い始める。

 けれどもプルターニュさんは気にせず会話を続ける。

 強いな、この人………。


「その鬼の話は、噂ではどのような事でしたか?」

「そうですね………確か通り掛る人を容赦なく襲い掛かる存在だと、ですからこの村では自給自足が当たり前になっていると………」

「………」


 静か。

 空気がしんっ、としている。

 ほんの少しの余計なことが僕の首から下がくっつかない感覚が脳裏の中で浮かび上がる。 


「えぇ、事実です。その全ての話は………」

「ほう、それは一体どういう事ですかな?」

「どういう事と言いましても、その言葉の通りです。世の中には知っていい事と知ってはいけないことがありますから」

「ですが私たちは、この村の歴史がその噂と関係あると思っています」

「それでも、教えることはありません」


 プルターニュさんがい質問するたびに、オニヒメさんは頑なに断り続ける。

 そのやり取りが数分続いても、二人の言い争いが止まるわけでもなく、逆に激しさが増すまでも巻くただ水面下でやり取りをしているだけだった。


「ですから………」

「ちょ、ストップストップ! やめてください! ていうか落ち着いて! プルターニュさん! 鬼についての噂もですけど、僕達は他にも目的がありますから!」

「!! そうですね、少し熱くなっていました」

「オニヒメさんも少し、落ち着いてください」

「………分かりました」


 僕が仲介に入ると、彼女たちは言い争うことを止め先程までの熱い語らいは収まり、二人とも先程までの冷静な状態になる。

 とはいえ、いつ、あれが爆発するか分からない。

 僕はいつ爆発するか分からないこの状況に少々、怯えながらも静かに眺めた。

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