第10話 観光

「ユラく……さん、そこにいましたか」


 先ほどまで、女性に神社の礼儀を教えて貰い去っていた所を見ていると、急に背後からプルターニュさんが現れる。


「あ、プルターニュさん。御話は聞けたんですか?」

「えぇ、聞けました」

「そうですか」

「いや、本当にいい話を聞けました。まずは………」


 プルターニュさんは村の方々に少しこの村についての話を聞き終えた所で、饒舌な口ぶりでこの村の成り行きを語り始めた。

 その言葉は饒舌ながらも絶妙に聞きやすく、聞いていて不愉快を抱かせない論理的な内容だった。


「……それで、君は何をしていたんですか?」

「あ、この……神社、と言う神殿を見ていた所です」

「ほぅ、ここを………入り方はきちんと分かりましたか?」

「えぇ、通りかかった方に教えてくれました」

「ほぅ! そうでしたか」


 僕が先程まで自身の身に起きた事を事細やかに説明すると、プルターニュさんは一瞬にして理解してくれた。


「ふむふむ、ではその女性は名乗りを上げなかったと?」

「えぇ」

「………不思議な女性ですね」

「そうですね」

「そう言えば、村の方々から聞いた話なのですが、この村にはオーガがいるらしいですよ?」

「オーガ?」

「えぇ、この村に元々仕える神の使途だったのらしいのですが、いつの間にか人に襲われる存在になっていたそうです」

「神に仕える………」


 プルターニュさんの言葉に僕は静かに神社の方を見る。

 柱には赤い塗装がされていながらも本殿には無駄な装飾や塗装が一切されていない、シンプルながらも神秘性を感じさせるものが堂々と佇み僕のことを見降ろす。

 けれども、どうにも僕には先程までの話がとても噂で済まされることではないと僕の勘が知らせる。


「その話ってどこから聞きました?」

「どこから、ですか……この村の方々でしたら全員知っていましたよ。昔から知っていると」

「そうですか」

「どうかしましたか?」

「あ、いえ………」


 鬼、神、近くの大量死体………僕にはとてもこれらが偶然にできた品物だと思わなかった。

 どことなく、糸と糸が絡まって玉ができる様に、この出来事には不思議と僕達もその玉の中にいる様な気がした。


「それに、鬼に関しての情報なら他にもあるよ?」

「え、本当ですか?」

「えぇ、聞いた話の中には御伽噺のような物もあったけど、中でも奇妙なのはその御伽噺を作った家が未だにあるという事かな?」

「本当ですか!?」

「えぇ、神社の近くにある屋敷がそうらしいですよ?」

「えぇ!?」


 だが驚いたことにその噂の元と言うのは、案外近くにあるもので、神社の隣ある屋敷がそのようだった。


「世間は狭いですね」

「そうですねぇ」


 僕とプルターニュさんはそう言いながら神社を一度拝み、そのまま出ていくと、隣にある屋敷にへと向かう。


「すみませ~ん」


 僕が屋敷の門の前で大きな声で叫ぶと、屋敷の方から返答はない。


「無いですね」

「ですね」


 屋敷の前に着いたのは良い物もここの主が出てこないと、何をするにも少し困る。


「どうしましょうかね?」

「話が聞けないとなると、一度宿に戻って店主に話でも聞きましょうか?」

「そうですね」

「どなた様でしょうか?」

「「!?」」


 僕とプルターニュさんが目の前の問題に度数るかと相談していると、急に門に取り付けられていた扉が開き、少し変わった服を着ている女性が出てくる。

 その女性は先程あった女性とは違く、派手な要素は無く、質素で腰元にはエプロンのような布を付けていた。


「え、えっとぉ………」

「?」


 急に人が現れた事によって、戸惑いを隠せなくなった僕だったが不思議そうな表情をしている女性を見てすぐに気分を戻し、彼女の表情を見る。


「すみません、このお屋敷にご主人はいらっしゃいますか?」

「御屋形様ですか?」


 御屋形様?

 ふと、その言葉に僕は疑問に思ったがすぐに僕は飲み込むと、女性の話を聞き続ける。


「御屋形様でしたら現在、いらっしゃいませんが………」

「そうですか」

「見た事ない方ですが、御屋形様にどのような御用件でしょうか?」

「旅の者なんですが、少し調べ物をしておりまし「すみませんが、ご協力できません」てぇ………」



 プルターニュさんが質問をしている途中に女性は話を遮るように急に声を上げ、扉を閉めようとする。


「ま、待ってください!」

「お帰りください! これ以上、語ることはありません!」

「で、ですけれども、ほんの少しはお話を!」

「いいえ、無理です!」


 プルターニュさんは勢いよく閉められる抑えるかのように必死に言葉を飛ばすが、扉を閉じようとする女性は何一つその言葉を聞き入れようとしない。

 逆に閉めようとする力を強める一方。

 このままじゃ、離した瞬間、どちらかが怪我をしてしまう。


「そこまでにしてください!それに両者共、落ち着いて! 怪我しますよ!?」

「いや、聞くまでは話すことはできません!」

「こちらもあなた方に話すことはありません!」


 なんで、この二人頑固なの!?

 僕は必死に止めようとして見せてもこの二人はその扉から手を放そうとしないし、力を弱めようとしない。

 あぁ、このままじゃ……。


「何しているのです?」

「「「!!!」」」


 すると、声がした。

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