第9話 村
僕がプルターニュさんのことを追いかける様に宿に入ると、既にプルターニュさんが受付を済ませ、部屋に案内されるところだった。
「部屋は既に取ってくださったんですか?」
「えぇ、取りましたよ?」
「そうなんですか。ありがとうございます」
どうやら、プルターニュさんは僕の分の部屋も取ってくれたようで、感謝の気持ちが抑えられない。
「では、お部屋にへと案内させていただきます」
「え、僕もですか?」
「はい、そちらの方もです」
すると、プルターニュさんの計らいで一緒に僕の部屋にも案内してくれるようだった。
これに関しては本当に感謝の念しかなく、部屋に着いたらでいいから、プルターニュさんに宿泊代をきちんと渡そうと心に決めた瞬間、
「ここでございます」
「ん?」
目の前には『杜鵑(なんて読むのだろう)の間』と書かれていた部屋の前に着いた。
案内してくれた女性が、扉と思われる取っ手に手をかけるとそこは大きな部屋があった。
「ふむ、文献通りの部屋ですね」
「ではごゆっくりとお休みくださいませ」
「ん? ちょっと、待ってください。え、僕の部屋ってどこですか?」
案内を終えた女性は、すぐに戻ろうとしたが、僕はそれを止める。
なぜなら、僕の部屋が案内されていなかったからだ。
すると、女性はぽかんとしながらも「ここの間でございますが……」と不思議そうな表情で僕のことを見てくる。
「えっ、もしかして、同じ部屋なんですか!?」
「えぇ、そうですけど、何か悪いですか?」
「いや、何が悪いとか……」
プルターニュさんは平然とそのような言葉を飛ばし、肩にかけていた荷物を下ろしていく。
いや、そう言われても一応、僕も男なんですけど………。
僕はそんなことを思いながら困惑していると、いつの間にか案内していた女性は僕の隣から消えており、僕とプルターニュさんだけが部屋に残された。
えーっと、まずは状況整理をしなきゃいけないよな。
宿に入り、いつの間にか取られていた部屋に入る、なぜかプルターニュさんと同室だった。
………意味が分からない。本当に意味が分からない。
考えれば考える程、更にこうなった結果が分からなくなってくる。
「では、観光に行きましょう!」
「え?」
すると、プルターニュさんは大きな声でそう宣言する。
僕がこんなに悩んでいるというのに、プルターニュさんに関係ないようだ。
「急になんですか?」
「観光ですよ。まぁ、観光と言う名の調査ですが」
それは逆にでもなるのでは?
「ですが、少しこの村を見たくありませんか?」
「………見たくないと言うと嘘になりますが、そうですね。見てみたいですね」
「やっぱりそうですよね!」
元気だな、この人。
今まで以上に張り切っているプルターニュさんの圧に押されながらも、僕は持っていた荷物を部屋の中にへと置くと、プルターニュさんに引っ張られながら村にへと駆り出される。
「それにしても本当にいいのですか? 僕なんかで」
「まぁ、そう言わないで。僕なんか、なんてあまり言わない方がいいよ」
「ですけど………」
「いいのいいの。気にしないで」
「そうですか」
正直言うと、自信が無い。
僕なんかがプルターニュさんの近くにいていいのか、プルターニュさんの邪魔になってしまうのではないかと。
とてつもなく身勝手な考えという事も重々承知なのだが、時々、急に僕の中にある自虐心が僕のことを否定する。
けれども、プルターニュさんはそんな僕の事なんか気にせずに僕を連れ出し村に駆ける。
その引っ張られる手は、人のことを良く知っている手であった。
「学者らしくない」
「む、何か言いましたか?」
「いえ、何でもありません」
「そうですか。でしたら、まずはあちらから見てみましょう」
そう言われるとプルターニュさんに引っ張られるまま、僕は村の中を歩き続ける。
派手では無く、また寂れてもいない。
この村を見る度に、本当に村なのかと勘違いしてしまう程、きちんと整備されていた。
「それにしても本当に村とは思えませんね」
「そうですね。多分、文化圏的な影響ですね」
辺りを見ながら僕たちはそんな会話をしながら村の隅々を見る。
今まで文献としか見た事ない存在が目の前に広がっていると、学者でもない僕とてその目の前に広がる風景に興奮してくる。
すると先ほどまで抱いていた自虐心が無くなり、僕の思考は目の前に広がっている興味にへと変わっていた。
「すみません。少しだけあっち見てきてい良いですか?」
「あ、いいですよ。私はあちらで現地住民に話を聞いてきます」
「分かりました」
僕がそう言うと、プルターニュさんと別れ村の中を散策し始める。
「それにしても、あそこ何なんだろう」
村の方々が住んでいる方も気になるのだが、今一番気になっていたのは村の奥にある神殿のような大きな建造物。それが気になった。
堂々と建つ建造物の前には門のような物があるが、扉が無い。
だがその門のような物はどことなく、普通の物では無いと感覚が答える。
「どうしよう………」
教会や神殿に入る際にルールがあるように、ここの門を潜る際にもきちんとしたルールがあるようなものが気がした。
「どうかしました?」
「え、いや!」
不審な人では無いです、と言おうと思って僕は振り向くとそこには綺麗な衣服を着ている女性が立っていた。
肌も白く、神も艶のある黒。瞳も僕らには珍しい聡明な赤色。身長もプルターニュさんほどではないが、僕よりも高く、その佇まいから見ているだけでも美しいと認識できるものだ。
「もしかして、観光の方ですか?」
「あ、はい………」
「そうですか。でしたら、神社の礼儀を知りたいのですか?」
「あ、はい」
礼儀。マナーの事か。
僕は慌てながらも、静かな笑みを向けてくる女性は「では案内いたします」と言いながら、神社と呼ばれる神殿に入るための礼儀を教えて貰うと、僕は少しだけ気が楽になる。
「本当にありがとうございます。ここに入るために少し困っていたんです」
「いえいえ、大丈夫ですよ。皆最初は気を使いますから」
「そうですか。もしかして、貴女もよくここに?」
「はい、毎日、通っています」
「そうなんですか! 当う事はここら辺の事を知っているのですか?」
「えぇ、知っています」
「そうですか! ………では、少し無粋と考えていますがここら辺の建造物など教えてくれたりできませんか? いや、本当に迷惑という事は分かっています!」
僕は大きな声でそう言うと、女性は「すみません。この後も用事がありまして……」と言うと、僕の目の前で頭を下げる。
「い、いや、大丈夫です。予定があるのでしたら、そちらの方を先に済ませてください」
「本当ですか?」
「えぇ、元々、こちらも無粋と思って頼んでいましたので」
「そうですか………では、
「分かりました。本当にありがとうございます」
僕がそのように感謝の言葉を言うと、彼女はすぐさま僕の前から去っていく。
「ん?」
けれども彼女が僕のことを横切ると、ふと鉄の香りが僕の前を横切った。
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