第5話 世間話

「では、プルターニュさんは勉強するためにワコクと言う場所に行っているんですね」


「はい、和国ではほとんどの民が読み書きができるそうですから」


「読み書きが!?」


 僕は、プルターニュさんと共に極東にある国『ワコク』にへと向かおうと言う意見が合い、その旅路を何気ない会話を繋げながら歩いていた。


「ということは識字率100%なんですか!?」


「さすがに完璧とまではいかないだろうけど、ほとんどの人は書けるだろうね」


「す、すごい」


 例え王国や教国と言えど、未だに50%未満なのに識字率が高い国なんて聞いたことがない。そのような国があるのなら、反乱などがおきてもしょうがないと思えてしまう。というか敵対国があったら真っ先に潰しに来ていると思う。


「よく、今までばれなかったですね」


「正直言うと、未だに半信半疑だよ。私だって」


「そうですか……」


 やはり、崇高な数学学者であろう方もその内容には疑うべきところがあるのか……。


「識字率なんてまだ優しい方かもしれませんね」


「え?」


 すると、プルターニュさんはそんなことを口ずさむ。


「どういう事ですか?」


「和国の本当の恐ろしさの所は戦闘能力だと聞きますよ」


「戦闘能力?」


「えぇ、識字率が高く、武力的にも五本の指に入ると言います。かつて、和国に関してが書かれた書籍があるのですが、その書籍にはたった一人で複数の兵を蹴散らす力が跋扈しているそうですよ」


「…………え、なにそれこわい」


 僕はその話を聞いていて恐怖感が増した。

 多勢に無勢にとはよく言うが、その概念さえも消すとか……それは人間なのかと思ってしまう。


「実際に、モルアガナ帝国を撃退したという経緯もありますし」


「あの、世界史最高の大帝国をですか!?」


「はい、けど大帝国があったのも数百年前の出来事ですし、私にもあまり分かりませんよ?」


「け、けど、その情報を聞いただけでも十分な力じゃないですか!?」


「かもしれませんね」


 呑気そうに答えるプルターニュさんに僕はその内容に驚きが隠せなかった。

 かつて西方国家を恐怖のどん底にまで追い込んだ大帝国を撤退させた力があるとは思えないし、あったとしたら大西方にある国家に比較できるかもしれないのだ。末恐ろしい国家だ。

 そんなところに向かうのかぁ、僕たち。


「どうかしましたか?」


「い、いえ、すごく不甲斐ないと思いまして……」


「……そうですか?」


 なんだろうか。そのような間を開けられてしまうと、少しだけつらい物があるなぁ。

 そんなことを思いながら、僕とプルターニュさんは長い旅路を歩いていた。


「少し休憩しますか?」


「休憩、ですか」


「えぇ、休憩です。ダメですか?」


「い、いえ、大丈夫ですかが……」


「そうですか。私も少し服が汚れてしまっているのでどこかの川で洗いたいですね」


「そ、そうですか」


 緊張交じりの返答、既に何時間という時間が過ぎていながらも僕は彼女との会話にドギマギさせていた。

 よくよく考えてみるとこうしてまともに人と会話したのは一体、何年ぶりだろうか? 僕自身、人と普通の会話をするのも懐かしいため、どのように話していい物かと迷ってしまう。


「あ、近くに小川がありますね」


「え? 本当ですか?」


「えぇ、水の流れる音と水の匂いがしていますから……距離的には大体、200mぐらいですかね」


「へ、へぇ、そうなんですか」


 プルターニュさん、僕には分からないです。

 あなたの言う水の流れる音なんて聞こえませんし、水の匂いに感じません。

 どういう感覚しているんですか。


「……私の顔に何か?」


「いえ、何もついていませんよ」



 だがそれを口にしない。僕って偉い!

 心配そうな表情で見てくるプルターニュさんの事は気にしないで僕は僕の事を考えよう。多分、前の職場の影響を受けすぎただけ、こっちが普通。こっちが平々凡々の内容。

 OK、僕?


「あっ、こちらですよ」


「はーい」


 もう何も考えない。考えたらこちらの負けになりそうだよ。

 そんなことを思いながら僕はプルターニュさんについていき、森の中を抜け小川へと出る。小川には透明な水が流れており周りの雰囲気はあっという間に変化を遂げる。

 まるで、世界が変わったかのような雰囲気だった。


「綺麗………」


 今までまともに休みが与えられなかったからだろうか、それとも出会いの無い冒険をしていたからだろうか。

 こんな綺麗な景色を見たのは初めてだった・どこにでもありそうな平凡そうな田舎の小川なのに、僕はそれが綺麗だと思えたし美しいと思えた。

 目がおかしい? 

 まさか、僕の目が平常だし視力だって断然良い。

 それでもおかしいというのだろうか?

 いや、おかしくはない。異論は認めない。

 にしても、


「水が美味しい………」


「そうですね」


 僕は流れている水を掬い、口の中に入れると冷たく気持ちの良い水が体の隅々にへと染み渡る。

 まるで体に生気が流れ込むかのような感覚みたいだ。


「では少し、ここで休憩といたしましょうか」


「あ、はい、分かりました!?」


 美味しいお水を飲んで気持ちが良いと思い、その場を振り返ると来ている服を脱ぎ柔肌を見せているプルターニュさんがそこにはいた。

 そのせいで、飲んでいた水を吐きかけた。

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