第4話 旅先

「………………」


「………………スヤァ」


 奇怪。

 一言で言うのならそうだった。

 僕の目の前で、行われている内容は、木の陰で大きな道具を抱えて寝ていた女性がいた。

 いや、冒険者や旅をする者なら寝ていることは当たり前だろうが、僕の目の前でその女性は白い白衣とマントを合わせたかのような物を身に纏っていながら、その懐からは一つのノートが落ちていた。


「あ、あの………………」


「ん…………誰ですか?」


 さすがに不用心すぎると思い、僕は木陰で休んでいる女性に話しかけてみる。

 すると、寝ていた女性は起き始め、目の前にいる僕に向かって反応し始める。


「え、えと、僕、ユラです」


 急な誰宣言に僕は反射的に自身の新たな名前を話すと「そうですか」と短い返事をしながら彼女は体を伸ばし立ち上がる。

 寝ていた女性の身体は僕よりも大きく。寝ている時には気づいていなかったが、色んな所が大きい。


「で、何か、用ですか?」


 女性は先程の寝ていたことも無かったかのように冷静な口調で僕のことを見降ろしてくる。


「え、えっと、あそこで寝ていると不用心だったので話しかけただけです」


「む、そうですか。分かりました」


 身長が大きく美人な女性に僕は首を上げてみるが女性の顔が見えない。

 というか、顔を上げ続けていると首が痛くなる。


「あ、あと、これ」


 そして、僕は女性が寝ている途中に懐から落としたノートを差し出すと、女性は半ば驚いた表情を見せる。

 いや、別に見えたわけでは無いけれど………。


「拾ってくれたんですか?」


「あ、はい。落ちそうだったので……」


「そうですか。ありがとうございます」


 女性はノートを受け取ると、そのまま懐にへとノートを入れるが、僕はその場所から動かなかった。


「どうかしましたか?」


「え、いや、何でもありません」


「そうですか………」


 結局僕は何も言えないまま、女性の前で佇んでいた。

 何で、僕は動かないのだろうと、僕自身もそんなことと思いながら、女性のことを見つめ続ける。


 グウウゥゥゥ、


 すると大きな腹の虫が鳴り始める。


「え、えーっと」


 けれども、その腹の虫は僕のじゃない。

 目の前にいる女性のお腹から聞こえてきた。


「………………すみません。なんか食べ物持っています?」


 女性はそう言ってくるが、先程までの静かに雰囲気は無くなってしまい、少しだけ変な雰囲気になってしまう。

 別に彼女の視線が僕の手に持つ肉串にへと向けられており、その口から透明な涎が垂れている。


「……食べます?」


「いいのですか?」


 僕は肉串焼きを差し出すと彼女は涎を垂らしながら僕に話しかけてくるが、僕は手に持った肉串焼きを差し出すと、女性は目を光らせながら僕の手に持つ串焼きを手に取る。


「いいのですか?」


「………いいですよ」


 僕は手に持った串焼きを彼女にへと渡すと、彼女はありがとうと短い返事をして涎を流したまま彼女は串焼きを頬張り始め、美味しそうな表情を見せる。

 やはり旨いものと言うものは一人でなくとも他の人に食べて貰うのが嬉しい気持ちなるというものだ。


「美味しいですね。これ」


「ですよね。分かります」


 ついつい、僕は串焼きの美味しさに同感を抱いてしまう。

 なぜなら、旨いから!!


「旨いですよね」


「旨いです」


 既に語彙力が失われつつある会話に僕と彼女はくすっ、と笑い始める。


「………………もしかして冒険者さんですか?」


「冒険者………………そうですね。元ですけれども、今は一体何をするか決めていません」


「元? という事は足を洗ったんですか?」


「えぇ、元々のパーティと少しだけいざこざがありまして………………それで今は目的も無いまま旅をしようかなを考えてします。ですけど、目的の無い旅と言うものは最初は難しいと考えていた所です」


 僕は彼女に言われてもいないのにベラベラと口を開き、出会ったばかりの彼女に向かって説明をし始める。


「目的の無い旅?」


「はい、少し疲れたんですよ」


「疲れた………………ですか。若いのに、難しいこと言いますね」


「そうですかね?」


 そう言われると、そうなのか?

 正直言うと、僕自身、一体、何がしたいのかさえも分からなくなるからよく分からない。

 僕と同年代の子は一体、どのような生活をしているのかよく分からないし、幼馴染の子は冒険者になりたいと言っていたから………少しだけ分からないな。


「けれど、少しだけ興味のあるところはあります」


「え?」


「東に行ってみたいです。極東には不思議な国があると聞きましたから、この目で見てみたいと思いまして」


「極東………それは和国ですか?」


「『ワコク』?」


「えぇ、極東にある島国です。数年前まで鎖国制度を取っていまして、その国の事を知っている人が少なかったようです」


「鎖国………」


 確かに聞いたことある。

 極東の島国に行われた対国際政策として当てられた貿易制限でもあり入国制限。書物で読んだ内容ではそう書いてあったが、実際は場所だけしかわからずどのような形の国なのか分からない。

 それに極東の国には不思議な文明が広がっており、独特な文明や文化を持ち入れていることがあるという、作る物が質が良いとも聞くし、興味のある場所だ。


「もしかして、貴方は和国に行くのでしょうか?」


「ワコク………はい、はい! 行きます!」


 僕はついつい、声を荒げながらそんな事を言うと、彼女は柔らかな笑顔で、僕のことを見てくる。


「そうですか。私も、東に向かっているんですよ」


「で、でしたら………」


「はい、目的は一緒ですね」


 僕は目を輝かせながら彼女を見つめると、彼女もまた僕のことを眺めてくる。


「で、では、一緒に、行きませんか!?」


 たどたどしく僕はそう宣言すると、彼女は優しく「ではよろしくお願いいたします」と言いながら頭を下げてきた。

 まさか、あのような奇怪な出会いから旅の目的も見つかっていなかった僕だったのに、彼女と会ったばかりに僕は旅の目的と旅のお供を手に入れた。


「そう言えば、お名前は一体何と言うのですか?」


「あ、私、数学学者をしておりますプルターニュ・イスカリアと言います。よろしくお願いいたします」


 まさかの数学学者!? と思いながら僕は、


「そ、それは、よ、よろしくお願いいたします」


 と言いながらその小さな頭を垂れた。

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