第20話:お付き合い




 母との約束を守って、フランクと一緒に馬車で郊外へと繰り出す。


「お手を煩わせてしまって、すみません」


 フランクの腕を掴みながら、オレは馬車を離れると街中を歩いていた。


「いいのですよ。貴女とこうして散歩出来るだなんて夢のようです」


 げー。本気で言ってんのか、コイツ。

 家族や家の者、そして友達以外に先導されるのは初めてだった。

 余り街中には行かないが、ざわざわとやけに騒がしい。


「随分と賑やかですね。サーカスでも来てるのでしょうか?」


 見えないのが非常に残念だ。

 がっかりしているとフランクはクスクスと笑う。


「何と可愛いらしい事を。皆、貴女を見て噂しているのですよ」

「え? どこか汚れていますか?」


 このドレスは母が用意してくれたものなので、キチンと洗濯してあるはずなのだが……。


「いえ。余りの美しさに驚いているのです」

「あ……えっと」

「ため息が出るほど美しいのに」

「口がお上手ですね。フランク様」

「本当の事ですよ。……さあ、友人の店につきました。美味しい珈琲を出している店です。足元に気をつけて」

「はい」


 フランクの案内してくれた珈琲店は、オレにとっても懐かしい所だった。


「よう、色男! どうした? そんな別嬪さん連れて」

「アベル。この方はゴウル家のアンジェリカ様だ。自慢の珈琲を頼むよ」

「ああ、例の。あいよ!」

「さ、座ってください」


 フランクは椅子を引いて、慎重に座らせてくれた。


「ありがとうございます」

「いえいえ」

「あの……フランク様」

「何でしょうか?」

「メナス家のアルフレド様から色々とお聞きしたのですよね? わたしの事」

「ええ、お伺い致しました。それが何か?」

「わたしは結婚には適さない女だとわかった筈でしょう? 何故、また訪ねて来て下さったのです?」

「私は話を聞いて、益々、貴女と結婚したいと思いましたよ」

「ええ……?」


 何でだ。


「本当にアルフィから全部聞きましたか?」

「はい。レオン王子やキラからも色々と聞き出しました」


 何と、そこまで……オレの気持ちを察したのか、フランクは澄ました口調で。


「私からも質問させて頂いて構いませんか?」

「はい」

「貴女が数々の求婚を断っているのは、男が怖いからですか?」

「あ……」


 オレは迷った末に、頷いた。


「やはり、そうでしたか……。その事について王子が、とても心配しておりました」

「レオン……様、が?」

「ええ。王子は一度、貴女を正室にと望んだ間柄でしょう。貴女の事をとても大切に扱って欲しいと懇願してきました」

「……」

「アンジェリカ様。改めてお願いいたします。どうか私と結婚を前提にお付き合いして頂けませんか?」


 黙り込んでいると、アベルがいい香りのする珈琲を静かにテーブルに置いた。


「お嬢ちゃん。部外者が口出しして悪い。フランクは軽そうに思えるかもしれないが、相当良い男だぞ。付き合うだけ付き合ってみたら、どうだい? 結婚しろだなんて野暮なこと言わねぇからさ」


 おっさんは口出ししないでくれないかなぁ。

 と思いつつ、曖昧に頷いてみせた。


「お。やったな。フランク」

「宜しいのですか? アンジェリカ様」


 まあ、すぐに愛想つかされるだろうし、フランクが結婚したなんて話、オレは聞いた事ないから上手くいくはずがない。

 それにフランクはアベルが言うまでもなく信用できる良い男だしな。

 ……なんて気軽に思いつつ、オレはもう一度頷いた。


「どうぞ宜しくお願い致します。フランク様」


 どうせフランクはモテるから、例えオレと上手くいかなかったとしても落ち込む事はないだろう。

 そう思っていた。



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