第19話:フランク




 かつてオレの仲間内でフランク・サマルという地方では有名な由緒正しき家柄のキザったらしい男がいて。

 ソイツが今、目の前にいた。


「アンジェリカ様。どうか私と結婚してください」


 そっと手を握られて、間近に気配を感じる。

 まあ、アンジェリカの美貌じゃこの色男が迫るのも納得だが。


「……お断りさせてください」


 控えめにフランクの申し出を拒否すると、フランクは両肩を掴んでまくしたてた。


「何故ですか?」

「申し訳ございません」

「理由をお聞かせください」

「ご存知の通り、わたしは目が見えません。あなたのような大貴族の方と一緒になる事など許されません」

「そんな事は障害になりません。貴女の事は、この私が全身全霊を持って守ってみせます」

「サマル様」

「どうかフランクとお呼び下さい」

「フランク様は、アルフレド・メナス様をご存知ですか?」

「ええ、よく知っております。貴女の元・婚約者だったとお聞きしました」

「アルフレド様が全てを知っております。立場的に、わたしの口からは申し上げられませんが、彼ならば全てを説明してくださるでしょう」


 ここ最近の面倒事は全てアイツに振ることにしていた。

 どうやらアルフレドはあれ以来、随分と反省し、自分の犯した罪に苛まれているようで、すっかり生真面目な人間になってしまったらしい。

 時折、謝罪の内容の点字の葉書などをよこしてきた。


「わかりました。今日の所は帰ります。失礼いたしました」

「お気をつけて」


 オレは一礼して、フランクを追い出した。

 ふー……と深い溜息をついていると母が声をかけてくる。


「また、お断りしたの?」

「お母さん……お手紙でお断りするのは駄目?」


 女性にとっては結婚適齢期で。

 どこから話を聞いてくるのか、ゴウル家には頻繁に求婚の申し入れが来ていた。

 何より厄介なのは、オレの容姿を知らずに求婚してきて、初対面の時にぶっ倒れる者が続出した事である。

 お化けかっつーの。


「手紙で来たものに関しては手紙で返せばいいわ。でも、直接いらしてくれた方には会ってお話するのが礼儀よ」

「そう、だよね……」

「アンジェは結婚したくないのかしら?」

「お母さん……」

「怖いの?」

「……」


 怖いっていうより不愉快?

 何で男と結婚せにゃならんのだ。


「一歩、踏み出してみなさい。アンジェ。次に会う人に、外へ連れて行って貰うのよ」

「お母さんが、そう言うのなら……」


 渋々、頷くと、母はしっかりと抱きしめてきた。


 そして。


 次にやって来た男は――またしてもフランクだった。



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