第18話:(Sideマルス)作戦会議




 集合時間に遅れて城の一角に現れたマルスを見て、金髪碧眼の美男子――レオンが睨みつける。


「遅いぞ。一体、何してた?」


 レオンは不機嫌だった。

 それもその筈、ゴウル家の近くに止めてあった馬車で待機していた筈の部下が何の言付けもせずに姿を消したのだから。


「悪ぃな。ようやく女神を見つけたから借りを返してきたんだ」

「女神って、幸運のコインの?」


 同じ部屋にいた赤毛に青い目の色男であるフランクが声をかけてくる。


「そうだ。あのコインのお陰でオレはここにいる。感謝してもしきれねぇよ。ただまあ、オレにとっては女神だが、実は娼婦かと思ってたんだ。今まで見当違いな所を探してたらしい」

「娼婦ですって? 一体、どういう事?」


 驚いたキラは、マルスのいう女神がアンジェリカだとは夢にも思わなかった。

 キラは黒髪で緑色の瞳を持つ勝気そうな女性だ。


「スラム街の花屋敷から出てきた所でコインを恵んでもらったんだよ。気怠そうな綺麗な女で、貴族っぽい男に寄り添ってたからさ」

「そうか」


 レオンが眉間に皺を寄せたのを見て、茶髪に同じ色の瞳のマルスはからかうようにシニカルな笑みを浮かべる。


「それよか、お前の用事は済んだのか?」

「まあな」

「なあ、レオン。いつも思ってたんだが、あんな寂れた住宅街に何の用があるってんだ?」

「同級生がいるんだ。お前にもいつか紹介するよ」

「お、珍しいな。いつもだったらキラ以外の事は隠そうとするくせに」

「うるさい。さあ、これを」


 レオンが差し出したのは手のひらサイズの小箱。

 マルスが箱を開けると、握りこぶしくらいの大きさの丸い灰色の石が入っていた。


「なあ、本物はまだ見つかんねーの?」


 マルスが盗もうとした輝石は偽物だとレオンから聞いていた。


「ああ、探している。とにかく今はソレを使うしかない。ジンも騙されるだろう」


 そこへ、喪服のような暗い色の服を着た灰褐色の長い髪の顔色の悪い男――アルフレド・メナスが入室してきた。


「遅れてすまない」

「おっせーよ」

「謝ったはずだが」


 アルフレドは赤茶がかった静かな瞳をマルスに向けた。

 他の三人は、お前も遅れたくせに……と内心思いつつ、肩をすくめたり嘆息したりしていた。


「ま、いいや。そんじゃ、いっちょやってみるぜ?」


 マルスは石を右手に持って、仲間たちに暗示をかける。


『この石は輝石で、眩く光り始める!』


 マルスの手の中でキラキラと輝き始める石を見て、その場にいた者たちは驚いた。


「……どうだ?」


 ニヤリと笑うマルスと石を凝視する一同。


「本当に光ったね」


 まず始めにフランクが一言感想を述べる。


「レオン。手、貸せ」

「何だい?」


 マルスはレオンの手のひらに石を載せて、もう一度、暗示をかける。


『レオンの手の中の石は輝石で光り始める』


 やはり、石はキラキラと輝いた。


「驚いたな……!」


 レオンは自らの手の中の光る石を呆然と見つめている。


「ま、ただの石ころでもハッタリくらいにはなるだろ。後は本物の輝石が戻ってきたら交換すればいいさ」

「あんた本当に驚くくらい腕の良いペテン師ね」


 皮肉混じりのキラの台詞に、マルスはにっこりと笑った。


「お褒め頂き恐悦至極でございます」

「その力を悪用しないとここで誓え。マルス」


 生真面目なアルフレドがマルスに詰め寄った。


「あー、ハイハイ。チカイマスー」

「貴様、ふざけるな!」

「まあまあ、アルフレド。落ち着きなって。これでジンに一泡吹かせてやれるんだからさ」


 フランクが嗜めると、アルフレドは頷いた。


「ああ……そうだな」

「レオン。これで、ある程度上手くいきそうだけど、他の準備は整ってるのかい?」

「あと少しだ。開戦までには間に合うだろう」

「了解!」

「では、皆、手筈通りに頼む」


 最後にレオンが締めて、解散となった。



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