第9話:初めての




 それ以来、レオンはオレから目を離さない事に決めたらしい。

 アルフレド並みにオレに張り付いてきた。

 休日、キラに誘われてピクニックに行った時も、アルフレドと一緒についてきてしまった。


「ねぇ。レオンってアンジェの事、好きなんじゃないかしら?」

「そんな事ある訳ないよ」


 オレは苦笑する。


「そうかしら~」

「キラ目当てなんじゃないの?」

「んな訳あるかっての!」

「わかんないでしょ。将来は王妃様か~」

「もう、からかわないで!」


 将来、レオンとキラは相当いい感じになるのだから、そういう事もあるだろう。

 オレは、そういう風に考えて笑った。







「あの二人、仲良しだなぁ」


 アルフレドは実に華やかな女子たちを見て微笑ましく思った。


「アル。私が口出す事ではないが、アンジェとは上手く行ってるのか?」

「ああ、勿論。僕たちも相当仲良しだよ」


 アルフレドは頬を染めた。


「キスした事ある?」


 レオンは唐突に聞いた。


「え?」

「恋人らしい事、出来てるかい?」

「それは、まだだけど」

「そうか……」

「そういうレオは、どうなんだい? いい人いるの?」

「親から何件か見合いの話は来てるよ」

「そういえば、レオは乱暴な子が好みだったね」

「乱暴って何だよ?」

「あ。元気のいい子だった」

「アル。お前……」

「図星だろ?」


 レオンは顔を赤らめた。







「ねえ、ちょっと二人共ー」


 キラがレオンとアルフレドを呼ぶ。


「何?」

「どうした?」


 二人がやってくると、キラが明るい声を出した。


「あそこに泉があるらしいの。行ってみない?」

「レフの泉か……」


 レオンは思案気な声をだした。


「時間あるし行ってみようか。アンジェ、立てる?」


 アルフレドがオレを立たせると手を引いてくれた。


「レフの泉の水は、冷たくて美味しいらしいよ。楽しみだね」

「うん」


 アルフレドの導きで、水の匂いがする場所へとやってくる。


「わー。綺麗!」


 キラの弾んだ声がした。


「本当だ。凄いな」


 レオンの感心した声も聞こえる。


「わっ、やだ。何してんの!」

「気持ちいいだろー?」

「ちょっと、やめて……もう、こうしてやる!」


 パシャパシャと水の音がした。

 キラとレオンは何やら遊んでいるらしい。


「アンジェ。触ってみて」


 アルフレドはオレの腕を支えながら、しゃがみこむ。

 木靴を履いていたので気付かなかったが、どうやら泉の浅瀬であるらしい。

 手のひらに柔らかい水の感触が感じられた。


「わ……冷たい」


 思ったよりも冷える。


「ね。まだ泳ぐのには早いかな」

「アルフィは泳げる?」

「ううん、泳げない。でも、いつかアンジェと泳ぎたいなぁ」

「わたし、大丈夫かな」

「僕がついてるから大丈夫だよ」

「……うん」


 アルフレドの肩を抱く手に力が入った。

 と思ったら、唇に柔らかい感触が。

 これは……もしや。


「ごめん。嫌だった?」


 思わず身震いしたオレに、慌てた様子でアルフレドは肩をさすってくる。


「……わたし達、結婚するんだね」

「もうすぐだよ」


 アルフレドの言葉に、身体の震えが止まらない。


「大丈夫かな。わたし……」

「何が不安なの?」

「何もかも……全部。これから、どうしていいか、わからな……」


 何やら熱いものが頬を流れた。


「アンジェ……」


 アルフレドはオレを抱きしめてきた。



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