第8話:コレが切っ掛け……?




 それからというもの、廊下を歩く度にひそひそと語りかけてくる声があった。

 殆どが卑猥な言葉で。

 その幼稚さに辟易しつつも、また同じような事があったら……と危惧していた時、昼休みにレオンが小声で耳打ちしてきた。


「捕まえたよ」

「……?」

「君を襲った犯人」

「え……?」

「大丈夫。アイツは綺麗さっぱり消えるよ」

「レオン様……?」


 レオンの言葉に底知れぬものを感じて、オレは耳を疑った。


 翌朝、クラスメイトの一人が転校していったと教師が告げた。

 相当良い所の貴族の息子で。

 あの時、愚かにも王になろうと画策していた男――ジン・ベイスだった。


 同じクラスだったのか。アイツ。


「ベイスの奴、急な事で挨拶も出来なかったらしい」


 と教師は締めくくった。


 ジン・ベイスはレオンの手によって、地方へと追い出されてしまったようだった。

 奴が謀反を起こした理由も、ひょっとしたら今のオレの所為なのかもしれない。

 そう思うと、とても恐ろしくなった。


「レオン、様……」


 吐き出されたオレの声は、どうしようもなく震えていた。


「心配しなくていいんだよ。もう二度と、怖い思いはさせないから」

「あの……わたし」


 自分はかつての仲間であるマルスで暗示の力があるんだ――とレオンに告げようとしたが。

 この時のレオンはかつてのオレに出会ってもいないのだ――と思い至って途方に暮れる。


「泣かないで。アンジェリカ。もう何も心配いらないよ」


 レオンは優しくそう言って、オレの涙を拭ってくれた。



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