第2話:ここ何処?
唐突に生暖かい中にいた。
(何だ、コレ?)
周囲からワンワンと誰かの話し声のようなものが聞こえたが、何れも意味を汲み取れなかった。
「☆▽※□?」
「◇□☆!」
何だか理解のできない言葉が頭上を飛び交っている。
何が起きてるのかを探ろうとするが、肝心の視界が真っ白でよくわからない。
(あー、何か言ってるけどわかんねぇ。まあ、いいや。このまま寝ちゃえ)
酷い眠気に襲われてオレは意識を手放した。
そして、次に目をあけた時。
唐突に寒くなった。
直後、何か柔らかいものに包まれる。
でも、肌寒い。
視界は相変わらずゼロだった。
ひたすら真っ白な世界が広がっている。
「ごめんください」
何かを叩く音に次いで、耳のそばでハッキリとした公用語が聞こえた。
若い女性の声だ。
「……どうしました?」
少し離れた所で、戸惑うような男性の声がする。
「道に迷ってしまって……少しの間だけ、暖を取らせて貰っても宜しいでしょうか」
「ああ。いいよ。早く入りなさい」
「ありがとうございます」
そんな女性の言葉と共に風の音が止み、周囲が暖かくなる。
「さあ、暖炉の傍に」
「はい……」
「どうしたんだい? こんな吹雪の夜に」
「主人が、この子を殺すつもりなのです」
オレの頭を優しい女性の手が撫でる。
「殺す? 何でまた……」
「双子なのです」
「……それは」
男性は絶句した。
双子は一部の地域で忌み嫌われていた。
「この辺りに、子供のないご夫婦はいらっしゃいませんか?」
「いるけど……まさか」
「このまま殺されるよりは……お願いします。お願いします!」
「わかりました。貴女は、すぐにおかえりなさい」
「すみません。本当にありがとうございます……」
女性の手から、おそらく男性の手に。
オレの身体は浮遊感を感じていた。
(何なんだ? 一体)
そう思いつつも、また強烈な眠気と共に、意識がなくなった。
そして。
次に目を開けると、すぐ目の前に人の気配を感じた。
「大丈夫かい?」
優し気な男性の声がする。
「……何が?」
やはり視界が不明瞭だったが、問いかけてみる。
「わかるのかい?」
「だから何が?」
やや間があってから男性は慌てた様子で叫んだ。
「大変だ! ユーリ! 来てくれ」
「……どうしたの?」
今度は女性の声だ。
「アンジェが喋ったんだ」
「え?」
「ブランコで遊んでいて落ちてしまったんだ。そうしたら……」
目の前にいるであろう男女の慌てようといったら大変なものだった。
「アンジェ。私がわかる?」
おそらく女性の優しい手の感触が頬に感じられた。
「アンジェって……? 目が……。あなたは誰?」
「まあ……」
女性は悲しそうにオレの頭を撫でる。
「私は、あなたのお母さんよ」
「そして私はお父さんだ」
はて?
オレには肉親と呼べる存在はいないんだが。
「お父さん……お母さん……?」
別に今更、欲しいだなんて思わなかったが、小さい頃は憧れていたその響き。
「やった。アンジェが喋った!」
「私、先生を呼んでくるわ」
「いや、私が行こう。ユーリはアンジェを見ていてくれ」
「わかりました」
こうしてオレはユーリという名の女性の胸に抱かれながら、混乱していた。
何だかとってもリアルな夢だな……。
どこか朦朧とした意識の中、そんな事を考えた。
「お母さん……?」
「アンジェ? どこか痛い?」
「目が、おかしい……何で……」
目をこすってみるが、何も見えない。
「大丈夫。私がいるわ。さあ、歩けるかしら?」
ユーリという名の母親が手を引いてくれるので何とか歩けたが。
視界がきかないのは単純に不安だった。
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