陰と陽
宙夢
第1話:一度目の人生
『石よ。光れ!』
壮麗な王の間に、驚いた顔が幾つも並んでいた。
「残念だったな。オレが真の王だ」
本当の王になるべき人物――レオン王子が頭と腹から血を流しつつ足元に転がっていたので、そう言うしかなかった。
口元に笑みをはりつけたオレに誰もが息をのむ。
「そ、そんな馬鹿な!」
愚かにも王になろうと画策していたその男――ジン・ベイス卿は、オレを見つめて顔色をなくした。
オレが手に持っているのは、レオン王子が事前に渡してくれていた手のひらサイズの丸いただの石ころ。
だが、周囲の視線の先には光り輝く輝石が映っているだろう。
輝石が光るのは主を認めたその時のみ――そう信じられていた。
「嘘だと思うなら奪ってみるがいい。出来るもんならな?」
敵の数は無数。
片や味方は主を含めたったの数人。
結果は目に見えていたが……。
そして。
無数の矢が自分の身体に刺さり、ベイス卿の剣の切っ先が正確にオレの喉を切り裂いた。
「ははは……これで、この国の王は俺様だ……!」
倒れたオレから男は石をもぎ取る。
「な……。光らない? 何故……輝石が光らないのだ……?!」
馬鹿なヤツ。
それは、ただの石ころだっつーの。
「ジン・ベイス! 許さん!」
仲間の一人である普段は優しい色男のフランク・サマルが珍しく怒りを顕にして豪快にジン・ベイスを殴りつける。
フランクのやつ、暴れてるなぁ。
個人的にベイス卿に恨みがあるって言ってたもんな。
「マルス! しっかりして……傷は浅いわよ!」
紅一点であるキラ・ダレルが、オレの身体を抱きしめて気休めの台詞を涙ながらに吐き出した。
泣くなよ、キラ。お前、本当に良い女だよ。
……ま、オレに出来る事はこんなもんかな。
いやはや、それにしてもこの数年、実に楽しかった。
本当の友達ともいえる仲間に出会えたし、普通じゃ味わえないくらい色んな事が出来た。
それもこれも女神がくれた幸運のコインのお陰だな。
あとはレオンが助かってくれたら、それでいいや。
しかし、アイツ結構な深さで腹に短剣が刺さってたが大丈夫か……?
等と考えつつ、オレの短い人生は幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます