十二章 「供養、そしてそれから」

 樹齢300年以上はある木。

 この木は、私でも知っている。

 それは国の文化財に指定されているのだから。

 つまりは、智子さんが磔にされたのは、この木の前であったことを示している。


「何か智子さんのことで他に何か知ってる?」


 供養するにあたって智子さんのことをもっと知りたかったのだ。 

 人のことを知りたいと思うなんて、何年ぶりだろう。


「杏奈ちゃんより、とてもきれいな女性だったよ」


「それは、もう聞いたわ。てか、それは私に失礼じゃない?」


「杏奈ちゃんは、ほら、かわいいよ」


幽霊は珍しく慌てていた。


「あら、幽霊でもお世辞言えるのね」


「幽霊はなんだってできるー」 


 そこで幽霊は踊り出した。


「そこは認めちゃダメでしょ。それより智子さんのことよ」


「聡明で、まじめで、親思いの優しい人だったよ」


「そうだったのね」


 私は胸が張り裂けそうになった。

 智子さんはどんな気持ちで今までここにいたのだろうか。

 死後も幸せになれないなんて何の希望もない。

 死後も苦しむなら、私たちが生まれてきた意味は一体なんだろうか。

 その大きな木の下を掘り起こしてみると、骨がごろごろとでできた。

 無造作に骨が埋まっている。

 土葬の習慣がない日本だから、白骨化したあともきっと埋められず、そこに土が積もっていったのだろう。


「死んでしまったら、何も残らないんだよ」


 幽霊をそう言いながら、少し泣いているように見えた。

 私はなんと声をかけていいわからなかった。

 こんなときに幽霊の心の声が聞こえればいいのにと思った。

 私はそれを一つずつ丁寧に箱にしまい、この村をあとにしたのだった。

 村人たちは、何かぶつぶつ言っていた。

 私はこんな村二度と来たくないとすたすたと歩いていった。


 清める神社は、幽霊が指定してきた。

 その事に関して、私は何ら疑問も抱かなかった。

 私は宗教を信仰しているわけでもないし、骨の清め方などは知らなかったからだ。

 その神社に行き、骨を清めてもらった。そして、納骨堂で供養してもらった。

 私はなんだか少し心が軽くなった。 

 心ってこんなに動くんだったかなと思っていた。

 どうかこれからは安らかに眠っていてほしい。

 真心を込めて、私はその前で手を合わせた。



「次は、あの村の人をこらしめてもらおうか」


 幽霊はいきなりそう言ってきた。

 幽霊にしては過激な発言だ。


「冗談言わないでよ」


 とても現実的にはできないけれど、確かに私も心ではこらしめたいと思っている。

 でも、それは社会的にしてはいけないことだ。


「冗談じゃないよ。智子さんのいた頃、あの村の村長が村八分を決め、呪いもかけたんだから」


 私は唇を噛み締めた。

 村のトップがそんな人格の持ち主だったら、それに従う村の人も同じ考えを持つ。 

 人はリーダーシップを持った特別な人を求めて憧れる。

 例えそれが間違った方向への正義だったとしても、なんの疑いもしない。

 何で人は他人のことを考えたりしないのだろう。

 もしも自分が同じことをされたらと想像することなんて小学生でもできる。

 でも、それを知りながら人は自分の勝手で、物事を行うんだ。


「村長をこらしめたらいいのね」


 聞きながら、そういえば、「私は子供の頃から自分のことを誰かに決めてもらわないと何もすることができなかったな」と思い出した。 

 今はもう昔の自分とは違う。


「当時の村長の子孫が今も村長をしている。その人に会って、この言葉を言ってほしいんだ」


 私はその言葉を聞いて、ぞっとしたのだった。

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