十一章 「悲しき現実」
都会から少し離れた森の中にある村。
そこは文明から取り残されたように存在している。
井戸から水を組み上げて生活している。
まだ梅雨に入っていないのに、今日も雨が降っている。
雨は私の心の涙だろうか。
もしそうなら、きっと明日も雨は降る。
いつになったら降りやむのだろうか。
「ねえ」
私は幽霊に話しかけた。
「なに、杏奈ちゃん」
陽気な声で返事が返ってくる。
「今さらなんだけど、あなたの名前って何て言うの?『幽霊』じゃ呼びづらいし」
今まで声をかけるときは幽霊と呼んでいた。
「名前なんてもうとっくに忘れたよ」
「ホントに?実はすごくかっこわるい名前とか?ねぇ、教えてよ」
「嫌だ。呼び方は今のままで『幽霊』でいいよ」
「幽霊のくせにけちだなあー」
「そこは幽霊は関係ないでしょ」
私は自然と笑っていた。
幽霊との会話を終え、私はまずは聞き込み調査を始めた。
幽霊はあれから話しかけてこない。
そもそも、幽霊だから他の人からは見えない。
私が幽霊に話しかけることは、すなわち1人でぶつぶついっていることであって、怪しいことこの上ない。
だから、ここでは話しかけることができない。
そして、聞き込みをしていて、私は驚くことになるのだった。
村人皆が口を揃えて、智子さんの悪口を言うのだった。
もう300年も過ぎているのに、人はどうしてこんなにも愚かなんだろうか。
悪き風習は受け継がれていく。
「智子さんの遺体を供養したいんですけど」
「馬鹿なこと言うな。そんなこと絶対許さないぞ」
男はいきなり怒りだした。
私は人が怒るのには慣れている。
何とも思わない。
でも、話すらまともに聞いてくれないことは困る。
私の回りに人が集まってくる。
みんな私を白い目で見ている。
そんな状況になればなるほど、智子さんが不憫でしかたなかった。
「私は智子さんの子孫です。子孫が先祖の供養するのは普通ですよね?」
「智子の子孫?呪いをばらまきに来たのか。本当に最低の一族だな」
私は虚しくなった。心の声も話している言葉と一致している。
2つの声が一致していることは今までに何度かあったけど、まれなことだ。
一致すると私は安心できた。
それがこの内容で一致したのだから全然嬉しくない。
「だから、智子さんの遺体の場所を教えてください。あなたはそれだけすればいいんです」
私は大声をあげた。
その時、その男は吹き飛ばされた。
幽霊の方を見ると、手で銃のポーズをしてニコッと笑ってた。
この幽霊、人前で堂々と力使ったなと私はにらんでやった。
「場所はあそこに決まってるだろ。俺が言ったって誰にも言うんじゃねぇぞ」
男は何が起きたかわからず、大きな木のあるところを指差して逃げていった。
私はすぐにそこに向かうことにした。
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