十章 「大きな一歩」
「わっ、私は、どうしたらいいの?」
私は動転してわたわたしてしまった。
しかも、いつも「機械のようだ」と言われている私がだ。
どうもこの幽霊と出会ってから調子が狂う。
動転するのには他にも訳がある。
実は言うと、幽霊から心の声は聞こえてこない。
皮肉なことに、心の声を頼りに生きてきたのは確かだ。
それが聞こえないのだから、私はどうしていいかわからない。
幽霊になると、聞こえなくなるのだろうか。
もし、そうだとすれば今後幽霊たちと一緒に暮らしたいと少し思った。
そうすれば、私は心の声で悩まなくていい。
「まず、心の声は他の幽霊から聞こえないかわからないよ。何せ僕はあまり他の幽霊と交流がないから」
私の心の声を幽霊が聞いて、先に答えた。
でも、私の心配をしてくれてはいるようだ。声にはぬくもりがあった。
しかし、なかなか私は幸せになれないらしい。
一方で、幽霊は心の声を聞くこともできて本当に万能だなあと思った。
そして、死後の世界について少し話を聞いた。
死んでも生きていたときの姿で、死ぬ前の記憶を忘れずにもっているとのことだ。
生きていた頃と同じように時間は流れていき、1日が終わりまた次の日になる。
年はとらないけど、幽霊としての仕事を任されるようになる。
例えば、ずっと現世にとどまっている幽霊がいないかパトロールしたりするそうだ。
幽霊の仕事にノルマなどはなく、かなり緩いらしい。
やっぱり幽霊の仕事ってあるんだと私は自分の考えが当たっていて少し笑みが浮かんだ。
頭を切り替えて、もう一度運命について考える。
幽霊の本当の気持ちはわからない。私をからかっているだけかもしれない。
でも、幽霊の真剣でまっすぐな目を信じてみようと思ったのだ。
私はまだ信じることを諦められないようだ。
人の汚い部分を散々見てきたのに、私は心の底ではきっと誰かを信じたいのだ。
そう思わせるのは、この幽霊だからだろうか。
私はどこかでこの幽霊を身近に感じていた。
「運命を変えられるかは、杏奈ちゃん次第かな?」
「私次第?」
「そう。杏奈ちゃん、運命を変える覚悟はあるかい?」
私は考えた。
もし、死ななくてすむならどうだろうか。
運命を変えたところで心の声はきっと消えない。
でも、死にたいという気持ちが消えるなら、私は私を愛することができるだろうか。
これをきっかけに変われるだろうか。
「どうせ死のうと思ったんだから、それぐらいの覚悟はあるわよ」
私の小さな口は懸命に声をあげた。
私は運命を変えることを選んだ。
それは、私の初めての大きな一歩になるかもしれない。
「じゃあ、まずは智子さんの遺体を見つけて、清めて供養してあげようか」
答えがわかっていたように、幽霊は歩き始めた。
幽霊は「私に生きてほしい」とまた小さな声で言っていた。
切実な何かを感じた。
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