八章 「私が死にたい理由」

「私の死にたい理由は、ダメな自分に絶望したことよ。だっていくら自分を責めたって何にも報われないのだから。それでもやめることができない」


「そうね、そういう意味では、私は親の言うようにおかしな子ね」


 また感情がこぼれていく。

 ネガティブすぎる自分を見つめると虚しくなってくる。

 でも、私は子供の頃から一歩も前に進めていない。

 どうして、自分で自分を救いだしてあげないのだろうか。

 ありのままの自分を認めてあげないのだろう。

 自分の一番の味方は自分だと言葉ではわかっているのに、それを実践することはできない。

 他の人はこんなにも自分に厳しくないのだろうか。 

 もしかしたら、他の人は人の心の声が聞こえても、そんなに絶望しないかもしれない。

確かに辛い気持ちになるだろう。生きづらいとは思う。

 でも、命を絶とう思うほどのことではないかもしれない。

 私みたいに、心を壊してしまわないかもしれない。

 人の心の声が聞こえることと私の性格が残念なことに相乗効果を生んでるのだと思う。

 私の意思に関係なく、人の気持ちが伝わってくる。

 人の感情に巻き込まれるのは疲れる。

 その感情に飲み込まれ、その感情を同じように感じ、自分自身は消えてなくなってしまう。

 そして、消えたはずの自分自身をひたすら責め立てるのだ。

 自分でも何してるんだろって思う。

 感情がなくなっても自分を責める気持ちだけは残った。やめられないのだ。

 私は下を向きながら涙をこらえた。

 あれ、私今もしかして泣いている?

 どうして?

 自分の気持ちを言葉にするとそれはもうとまらなくなっていた。

 今まで誰にも言わず一人で抱えていたからだろうか。


「それに人なんて、信用できない。心の中では相手をバカにしてるのよ」


「私の生まれた意味なんてきっとないんだわ。こんな出来損ないの不良品だもん」


「そうじゃない!」

 

 幽霊は珍しく感情を露にした。


「何がそうじゃないのよ」 


 私は涙で目を腫らしながらも、大きな声をあげた。

 私はこの幽霊になんと言ってほしいのだろうか。

 自分をどうしたいのだろう。


「杏奈ちゃんが死にたい理由は、そうじゃない」 


 でも、すぐにいつもの優しい幽霊に戻った。


「何言ってるの。私自身が言ってるんだからそうに決まってるでしょ」


「違う。悪い運命がそうさせてるんだ」


「運命?」 


「杏奈ちゃんは生きていていいんだ。杏奈ちゃんのせいじゃないよ」


 私はその言葉に驚いた。

 もし、これは私のせいじゃないとしたら、私は少しは自分を許せるだろうか。

 生きていたいと思えるのだろうか。


「今日こそは、僕の話聞いてくれるかな?」


 幽霊はそっと私に手を差し出した。

 確かに幽霊の話をいつも私は、最後まで聞いていなかった。

 手を伸ばしながら、生きることを幽霊が導くなんておかしなことだと思っていた。

 死にたがりの私と私が生きることを望む幽霊。

 変な組み合わせだけど、なぜか幽霊には心を開くことができた。

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