三章 「苛立ち」
「幽霊?」
私の感じた違和感はそれはよるものだろう。
少し自分を落ち着かせるために、深呼吸をした。
いつもの私はこんなことで動じたりしない。
「そう、自殺をして幽霊になったんだ」
幽霊は軽く言っているけど、おかしなことだらけだ。
そもそも、なぜ私は幽霊が見え、しかも話せるのだろうか。昔から見えないものが見えたりする力は持っていなかったはずだ。
今さら急になぜなんだろう。
もしかして、私は実はもう死んでいて、今死後の世界にいるのだろうか。
そんな淡い期待をを抱いた。
この幽霊は自殺して幽霊になったと言ってた。
でも、幽霊がその事をカミングアウトしてくるなんて本当にまれだろう。
変な幽霊だと思った。
辺りを見回すと、風景や人は止まっている。
今光り輝く場所に私はいるようだ。
それを見て、少し下を向いた。
特になんて思っていない。
私はまだ死んでいないとわかっただけだ。
「えっ、色々聞きたいことはあるけど、私は幽霊に命を助けられたの?」
淡々と私は話す。
「そうだよ」
また、幽霊は笑顔を見せる。
「死んだ人間に命を助けられたの?しかも、それがかつて自殺して幽霊になった幽霊に?」
「うん」
私はため息をついた。そして、冷たく吐き捨てた。
どうしてだろう、この幽霊と話していると黒い気持ちが沸き上がってくる。自分で抱いた感情に驚く。
「余計なことしないでくれる?」
「えっ?」
一方、彼はあまり驚いていなかった。幽霊からは、言葉遣いとは裏腹に大人っぽい感じがしている。声だけ聞けば、私より年上と言われても納得がいくほど落ち着いている。
「あなただって自殺したなら気持ちはわかるでしょ?私はもう生きていたくないの」
私にはどうしても生きていたくない理由があった。
「僕は、君に生きていてほしいんだ」
「どうして伝わらないの」
本当にあり得ないことだ。
どうかしている。
何で自殺した人に、私の自殺を止められなきゃいけないのだろうか。
自分も自殺したくせに、人の自殺を止めるなんてなんの説得力もない。
そう言って、私は幽霊の元を去っていった。
「また自殺しようとしたら、必ず阻止するから」と幽霊は叫んでいた。
時は動きだし、人の群れの中に私は入っていった。
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