四章 「美しい自殺」
夕焼けが空を赤くする。
私は今、とある雑居ビルの屋上にいる。
ボロボロで気味悪く、誰も寄り付かないところだ。
だから、簡単に侵入することができた。
私は辺りを見渡しながらゆっくり屋上まで上がっていった。
手首の自殺未遂の傷が痛む。
でも、しなければよかったとは思わない。
あのときも、もしかして幽霊に邪魔されていたのかもと寒気がした。
そこから下を見ながら、このビルも私と同じ気持ちなのかなと思った。
誰にも気にされることはない。深くて底がないようだ。
ビルの縁へとゆっくりと歩いていく。
今さら急ぐことはない。
短いスカートがひらひら揺れる。私はよくスカートを履いている。親に女性らしくしなさいと言われていたからだ。
言いつけは守るべきだ。
でも、デザインはいつも奇抜なものだ。
さすがにそこまでは親も干渉してこないので、好きなのを履いている。
そして、私は躊躇することなく、そこから下に飛び込んだ。
この夕焼けのように、私も真っ赤に染めてほしいと願った。
落ちていくはずだった。
でも、何か膜のようなものにぶつかり、もといた場所に尻餅をついた。
こんなものは今までなかった。
何が起こったのかと思っていると、突然寒さを感じた。
この感じは知っている。
「命を軽くみちゃダメだよ」
この瞬間、私は確信した。前から私がしている自殺がうまくいかないのは、この幽霊が何らかの邪魔をしていると確信した。
あのときもかと思い出すと、なぜか憎らしくなってきた。
でも、ふと思った。この冷たさは幽霊の怒りなんだろうか。
もしそうなら、なぜ怒るのだろうか。
私が死ぬことで都合の悪いことでも起きるのだろうか。
それ以外に、自殺を止められる理由なんて私には見つからなかった。
「あなたはあの時の幽霊!何でまたいるの?」
幽霊は空中に浮いていた。
私は幽霊だから、空も飛ぶことができるのかと不思議とそんなことを冷静に考えていた。
「死にたがりの
私は
私は突然自分の名前を呼ばれてびっくりした。
名前なんてここ何年も呼ばれていない。 誰かと交流なんてしばらくしていない。
今日も、幽霊は黄色のハンカチを身につけている。
「自殺するなら必ず阻止する」
私は小さな声でそう言った。
「せいかーい」
幽霊は無邪気に笑ってた。
でも私は腑に落ちなかった。
また、邪魔をされた。
あれは気まぐれで、今回も邪魔されるなんて信じていなかった。
幽霊の言葉なんて、信じていなかった。
まあ人のことも信じていないのだけど。
「何で私の名前といる場所がわかるの?」
「それは幽霊のすごい力的な?」
幽霊は手を前に出して、変なポーズをとっていた。
「適当だなあ」
なんだか不思議だけど、自然とそんな言葉が出てきた。
「まあ、細かいことはいいじゃないか」
「そんなことより、やめてって言ったよね?」
また、闇が押し寄せてくる。
抑えられない。
こんな感情なくなったはずなのに。
「『やめて』と言う言葉は聞いてないよ」
そんなの直接言ってなかっても、あんな言葉を言われたら意味ぐらいわかるじゃないかと思う。
「じゃあ今後はこんなことやめてくれる?」
「こんなこと?」
本当にわかっていないのだろうか。それとも私で遊んでいるのだろうか。
幽霊だからか、表情から感情が読み取れない。
「あぁーもう!私の自殺を阻止するのをやめてくれますか?」
「そういう意味ね。それは約束できないよ」
今までとはうって変わり、幽霊ははっきりと言った。
「だから、何でそうなるのよー」
私は細い手を空にあげ、空を仰いだ。真剣なこっちがバカらしくなってくる。
まあ、死ぬのに真剣なのも、どうかと思うけど。
「それは僕が、、、」
「もういい、言わなくてもその先はわかってるから」
私は気持ちが萎えて、その日は帰ることにした。
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