二章 「助けてくれた人は?」

 その手はとてもとても冷たかった。

 私の白い体よりももっともっと白い大きな手だった。

 でも、振りほどくことができなかった。

 とっさのことだったけど、振りほどくことはできたはずだ。

 私はなぜ自殺をやりとげることができなかったのだろうか。どうしていつも中途半端なんだろうか。

 実は自殺を試みたのはこれが初めてではない。

 これまでに何度も自殺を繰り返している。

 やめることができないのだ。

 こんなダメな自分を許せないんだ。

 でも、なぜかうまくいかないのだ。


「何でこんなことするの」


 私は珍しく困惑していた。

 助けておいて文句を言われるなんて、相手からしたら迷惑き極まりないと思う。

 でも、言わないわけにはいかなかった。

 私は生きたくないのだから。

 相手はじっと下を見て、それからゆっくりと話始めた。


「それは、もう自殺なんてみたくないから」


  その相手は男性で、きっと私と同じぐらいの年だろう。

 パーマのかかった頭はおしゃれと言うより、ほんわかしたイメージを表しているようだ。


「どういう意味?」


 私は改めて彼の方を向いた。

 背は160センチぐらいで、私より少し低い。 目がくりっとしている。

 特徴的なのは黄色のハンカチを手首に巻いていることだ。他の服は地味だった。

でも、何か違和感を感じた。

 白い煙が少し巻き上がっている。

 なんだか全体の輪郭がぼやけている。うまく例えられないけど、空間との境界が曖昧なのだ。

 空間に溶け込んでいるような感じがする。

 足元をみると、靴も履いていないし足が真っ黒で潰れている。

 そして何より、生気を感じなかった。

 人からでる独特の暖かさというものが、彼からは全くないのだ。


「あっ、あなたって、何者なの?」


  私は握られていた手を振り払った。

 私の声は震えていたかもしれない。


「僕は、幽霊だよ」


  そう言って、彼はにこっと笑ったのだった。

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