笑顔の下でまた会いましょう
桃口 優/ハッピーエンドを超える作家
一章 「幸せを夢見る自殺」
こんなにも穏やかな日は初めてだというぐらい心が晴れ渡っている。
私はこうなることをどこかでわかっていたのだろうか。
もしかして、生まれる前からこうなることを望んでいたのだろうか。
空を見上げると、雲一つなく晴れ渡っている。
鳥の声も聞こえてくる。
目の前には、満開の大きな桜の木が花びらを舞わせている。
私はこの瞬間、涙が流れると想像していた。
私だって人間だから、そんなときぐらい他の人が普通描く感情を描くだろう思っていた。子供の頃から「人間味がない」とか「何を考えているかわからない」と言われてきた。
悲しさ、名残惜しさ、恐怖などそれらの感情をもしかして私は持ち合わせていないのだろうか。
だからだろうか、実際にその時になったら笑えてきてしまった。
何もおかしなことなんてないのに。
自分で自分のことがわからない。
空を見上げると、あまりにも青かった。
本当におかしい。
空は、今の自分とあまりにも違いすぎるから。
回りにいる人たちの視線を感じた。
きっと私は端から見れば、怪しい人なんだろう。
踏切の前で、いきなり笑い始めるのだから。
人通りはあまり多くない。
ここは海の見える駅だ。
踏切の向こう側、海は世界を覆い尽くしている。
海を見つめながら、私は自分で自分を納得させた。
私はきっと感情を感じる脳がすでに麻痺しているのだ。
だからこんなときでさえ笑ってしまったのだ。
かんかんと踏み切りで音が鳴り始める。
あのことが私をこんなことをするように変えてしまった。
胸で消えないこの感情をどうすることもできなくなっていた。
だから、私は下まで降りた踏切のバーをくぐり、中に一歩足をすすめた
周りの人はどよめきだすけど、誰も私を止めようとする人はいなかった。
世の中に、本当の優しさなんて溢れていない。
それを私は知っている。
電車が近づいてくる。機械の音がうるさく響いてくる。どんどん電車は大きくなってくる。
私の胸の下まである長い黒髪がゆらゆら揺れる。
私は躊躇わず進み続ける。
そして、踏み切りの真ん中で立ち止まり、目をつむった。
そうしたのは怖いからではない。
ほっとしたのだ。
これでやっと解放されると思った。
臆病者の私がよくこんなことを実行できたなと今までのことを思い返していた。
その時、誰かが私の手をつかみ、引っ張っていったのだった。
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