第13話 『持つべき友は幼なじみ』~優香と香織…真一について①

真一と優香の歯車が噛み合わなくなってから、春休みを挟んで1ヶ月半が経とうとしていた。真一も優香も平行線を保ったままだった。


昼休み、図書館で優香の様子がおかしいと気づいた森岡は優香に尋ねる。


森岡「堀川とはまだアカンのか?」

優香「…うん」

森岡「お前はどないしたいんや?」

優香「いつも通りの堀川くんでいてほしい。今の堀川くんは全くの別人や」

森岡「うーん…」

優香「どうしたん?」

森岡「いや、なんでもない」


森岡は優香が最近元気がないのは堀川との問題だと悟った。森岡は本当はしたくないが、優香の手前、一肌脱ぐことをやらざるを得なかった。


優香がトイレに行っている間、森岡は坂本を呼ぶ。


森岡「坂本」

坂本「何や?」

森岡「堀川を放課後、図書館に来いって伝えてくれ」

坂本「断ったらどうする?」

森岡「無理してでも連れてきてくれ。オレから話ある…と言うてくれ」

坂本「…わかった」


放課後、図書館で森岡は真一を待っていた。しかし、真一は来ない。


森岡「ん(来ない)やないか…」

坂本「確かに伝えたぞ」

森岡「なんで来んのや?」

坂本「堀川は『わかった』って言ってたぞ」

森岡「うーん…」

坂本「何か用事済ませてるんやないか? 様子見てこか?」

森岡「まぁ待つわ」


しばらくして、真一が気まずそうに図書館にやって来た。


森岡「おう、待ってたぞ」

真一「何か用か?」

森岡「ちょっと2人で話したい」

真一「……」


森岡と真一は化学実験室へ。


森岡「アイツ(優香)のことなんやが…」

真一「………」

森岡「オレが言うのもなんやが、アイツ、お前と仲が気まずくなってからへこんでるんや」

真一「それで?」

森岡「何かアイツ、お前に話したい事があるみたいや。話聞いてやってくれんか?」

真一「この間、高校駅で聞いた。あんたと付き合ってることを自慢したかったみたいや。だから話は聞いたで」

森岡「それは違う。そんな事を話したいんやない。お前、幼なじみやろ? 幼なじみ同士で話がしたいみたいや」

真一「もう、オレが話すことは何もない。これからはあんたが話聞いてやんな。話ってそれだけか?」

森岡「待て。まだ終わっとらんぞ」

真一「………」

森岡「これは彼氏としてお願いしている。オレの立場で言うのもなんやが、アイツがお前と仲直りせんと、どないもならんのやと思う。そやからもう一回、アイツと話してやってくれんか? 頼む、この通りや」


と森岡は真一に頭を下げた。

真一は黙ったまま、返事しなかった。そして真一は化学実験室から出ていった。


森岡「おい…」


図書館に戻った森岡は、ブツブツ愚痴をこぼしていた。


森岡「アイツに頭下げても言うこと聞かんって、どんだけ頑固やねん❗」

優香「何かあったん?」

森岡「何もない…」

優香「……?」


真一は工業系職員室で、中田先生へ実習のレポートを提出していた。


中田先生「堀川くんはワシと一緒で南町やなぁ?」

真一「そうです」

中田先生「ワシなぁ、この間日曜日にスーパーで堀川くん見たんや」


その時、優香が工業系職員室に入ってきて、担任の鈴木先生から呼び出しされていた。


真一「ホンマですか? 声かけてくれたらよろしいやん」

中田先生「えらい熱心に食材を丁寧に見とったから『何を真剣に見てるんやろ?』って思ったんや」

真一「あぁ、肉のコーナーとちゃいますか?」

中田先生「そうや」

真一「ちょっとエエ肉無いか探してたんですが、あそこのはちょっと程遠かったんで、北町のスーパー工房へ行ったんです」

中田先生「そんな旨い肉あるんか?」

真一「ミスジが旨いんですよ」

中田先生「よう知ってるなぁ」

真一「たまに肉マニアになりそうな自分がおって怖いくらいです(笑)」

中田先生「また旨いもん教えてくれ」

真一「酒のアテ探してるんでしょ?(笑)」

中田先生「バレたか(笑)」

真一「そんなもんでも食って呑まんとやってられませんもんね(笑)」

中田先生「お見通しやなぁ(笑)」


真一は職員室を出ていこうとすると、優香も鈴木先生の話が終わり出ようとしていた。


真一・優香「失礼します」


真一はそそくさと職員室を後にする。優香も真一についていく。


優香「しんちゃん」

真一「………」

優香「しんちゃん、ちょっと待って」


歩くのをやめない真一に優香が走って追い付く。


優香「しんちゃん、ちょっと待って。なんで私の事ずっと避けるの?」

真一「………」

優香「……この間はゴメン。誤解招くようなことしたなぁ私。謝る、ホンマにゴメン」

真一「………」

優香「しんちゃん、さっき森岡くんに何を言われたの?」

真一「何もない」

優香「私の事でしょ?」

真一「………」

優香「黙ってても顔にかいてある」

真一「………」

優香「あのな、しんちゃん、私、皆から話聞いたんや」

真一「………」

優香「しんちゃんが辛い目に遭ってるって。それ、私のせいなんや」

真一「………」

優香「私がしんちゃんを苦しめたんや…」

真一「………」

優香「私がしんちゃんを裏切ったんや…」

真一「………」

優香「白木くんから話聞いた。白木くんも大分反省してたよ。坂本くんと一緒に大川先生から雷落とされたらしいよ」

真一「………」

優香「みんな、しんちゃんを苦しめたんや。みんな、しんちゃんに謝りたいのよ」

真一「………」

優香「私が気づいてあげんとアカンのに、私もしんちゃんを苦しめた。森岡くんと付き合うことになって…」

真一「………」

優香「しんちゃん、許してもらえんよね…」

真一「………」

優香「………」


真一と優香は沈黙する。


優香「私って、ホンマにアカンなぁ。調子にのったらしんちゃんめっちゃ傷つけて…。幼稚園の時じゃ考えられんかったことやもんなぁ」

真一「………」

優香「いいのよ、許してもらおうなんて思ってへんから。許さへんのならそれで良いよ。私らが悪いんやから…」


優香は泣くのを必死でこらえていた。

真一は一切話さない。真一はこの場から去ろうとしていた。

すると、森岡がやって来た。


森岡「堀川、お前、何とか言うたらどうなんや?」

真一「………」

森岡「お前知らんのか? 加島はなぁ、オレに頼んできたんや。『もしお前に器用なことせんとアカン時になった時、オレの事をほっといてでもお前の所へ行かなアカン。だから、そのときは了解して欲しい』と。オレが『嫌と言うても、お前の所へ行く』って…。お前、こんな幼なじみはおらんぞ❗」

真一「…………」

森岡「堀川、お前何とか言うたらどうなんや❗」

真一「…めんどくさい幼なじみやなぁ…。そんな事エエから、あんたが必死で行かんように食い止めんか❗」

森岡「食い止めれんわ。だってお前ら幼なじみなんやろ? オレはお前の存在があることはわかってる。だから許したんや。ホンマにめんどくさい幼なじみやのう」

真一「ホンマにめんどくさい彼氏やのう」

森岡「誰がめんどくさいんや?(笑)」

真一「あんたや」

森岡「なぁ、これでええんか?」

優香「2人とも…」


優香は喜んだ。


森岡「許してやってくれ」

真一「ただし条件がある」

優香「何?」

真一「オレには二度と『興味ない』もんには誘うんやない」

優香「みんなに言うとくわ」

真一「………」

森岡「ホンマに世話焼かせやがって」

真一「はぁ? どっちが世話焼いてると思ってんねん」

森岡「『持つべきものは友』というが、お前らは『持つべき友は幼なじみ』やのう」

真一「お前が言うか? その立場で?」

森岡「言わせるな❗」


優香は笑っていた。


その後、真一は白木をはじめ、みんなから謝罪があった。


優香「みんな、あのね、真一くんが『興味ないもの』には一切誘ったらダメやからね。それが私らを許してくれる条件やから…」


白木「…わかった」

坂本「わかった」

寺岡「ホンマに女っ気ないなぁ、おっちゃん。これでいいんやろか…」

村田「ゴメンな、堀川くん」

佐野山「しゃあないやっちゃなぁ…」

白木「佐野山、お前もや(笑)」

加藤「堀川くん、ホンマにこれでいいの?」

真一「オレは加藤さんと違うから…」

滝川「ホンマにそれでいいの?」

真一「あぁ。オレはこの世に生まれたときから一人や。兄弟もおらん一人っ子やから、一人は慣れてる。回り回って結局一人になるのは目に見えてわかってるから、それならはじめから一人でいいと思ってるから」


優香は真一の言葉に寂しい思いがした。


優香(やっぱりこのままではアカン。しんちゃん、一人は無理や)


真一(これで、ええんや。これで…)



一方その頃、香織は北川を連れて工業高校へ向かった。北川は校門の前で待つことにした。

香織は専門棟にある工業系職員室へ、担任である鈴木先生のところへ報告を兼ねて公休届を提出した。


香織「先生、色々とご迷惑をおかけしました」

鈴木先生「その顔は会えたようやな」

香織「ありがとうございました」

鈴木先生「礼を言うなら、堀川に言うとけ。ワシは何もしとらんぞ」

香織「でも公休届を…」

鈴木先生「それも堀川(がやったこと)や。ワシはアイツに言われただけや」

香織「でも、ありがとうございました。堀川くんにもお礼を言ってきます」

鈴木先生「うん」


香織は工業系職員室を後にし、校門へ戻り待っている北川のところへ。


香織「お待たせ」

北川「もういいのか?」

香織「うん。行こっか(笑)」


香織は満面の笑みで北川と一緒に高校駅に戻った。

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