第12話 北川と香織…再会のリベンジ
翌金曜日の朝を迎えた。真一は優香がいつも乗る快速電車の1本前、南駅6時10分の普通電車に乗った。
途中駅に到着し、改札口前で待ち合わせる。
30分程待っていると、香織がやって来た。
香織「堀川くん」
真一「おう、おはよう」
香織「おはよう。早いね、7時だよ(笑) ありがとう、私のために出雲に2回も行ってくれて…」
真一「いえいえ。それよりなぁ、話があってなぁ…」
香織「なぁに?」
真一「今から山口丹へ行ってほしいんや」
香織「山口丹へ?」
真一「この後の丹国行きに乗ってほしいんや」
香織「どうして?」
真一「行ったらわかる」
香織「…わかった。でも学校はどうするの?」
真一は鈴木先生から預かった『公休届』を手渡す。
真一「これ」
香織「公休届?」
真一「鈴木先生には仁義通してある。その代わり、夕方までに学校行って、この公休届を提出することが条件や」
香織「わかった。堀川くん、ありがとう。ホンマにありがとう。…じゃあ行ってくるね」
真一「あぁ…」
香織は改札を通り、ホームへ向かう。香織が真一に手を振った。真一も手を振って応えた。真一は香織に北川を連れて帰ってきたことは一切話さなかった。しかし、香織は真一を察したのか、北川を連れてきたのでは…と感じていた。そして香織は、山口丹で北川と再会しリベンジを果たすのでは…と期待と不安が交錯していた。
7時30分、丹国行きの電車が途中駅を発車した。真一はそれを見届けて、福町行きの電車に乗った。この電車には、途中駅に着いた快速電車から乗り換えてきた優香も乗っている。真一は優香から背けていた。それを優香は少し寂しそうに真一を見つめていた。
高校駅に着いたら、真一は駆け足でホームから改札を出て、高校へ向かった。優香は歩いて改札を出て森岡のところへ行った。
森岡「さっき、堀川が走って行ったぞ」
優香「同じ電車やったんやけど、私の方を一切見なかったわ。あ、それと…」
森岡「それと?」
優香「何か、途中駅から乗ってきちゃったんや」
森岡「途中駅から? なんでや?」
優香「わからへん…」
森岡「一体アイツの行動、ますます不思議やないか…。どうなってんねん?」
森岡と優香が高校に到着し、図書館に向かう。それから15分後、村田、加藤、滝川も図書館にやって来た。
村田・加藤・滝川「おはよう」
優香「おはよう」
村田「堀川くん登校してるの?」
優香「登校しとってやけど、今朝、途中駅から乗ってきちゃったんや」
滝川「途中駅から?」
加藤「なんで?」
優香「わからんのや…」
加藤「あ、そうそう。ゆうちゃん、昨日の放課後、香織ちゃんがゆうちゃんのことで聞かれたんや」
優香「香織ちゃんが? なんで?」
加藤「わからんけど…。森岡くんと付き合ってることを聞かれたんや」
優香「そうなんや…」
優香は少し考えていたが、森岡がいる手前、あえて何も触れなかった。森岡は心の中で笑っている。
一方、そそくさと高校に行った真一は、工業系職員室で鈴木先生と話していた。
真一「
鈴木先生「山下か?」
真一「ええ。さっき途中駅から丹国行きの電車に乗りました。体調も問題なさそうでした」
鈴木先生「そうか」
真一「公休の件も話してあります。夕方、よろしくお願いします」
鈴木先生「わかった」
真一「大川先生のところへ行って報告しておきます」
鈴木先生「うん」
真一は保健室の大川先生のところへ行った。
大川先生も了承した。
一方、丹国行きの電車に乗った香織は、電車が山口丹駅に到着した。時刻は8時10分。
駅の待合室で北川を待つことにした。同じ電車には北川は乗っていない様子だった。次の電車だと思い、香織は待つことにした。待っている間、記帳ノートをペラペラとめくって閲覧していた。電車の中で倒れて、真一に救護してもらった日以降、山口丹駅に来ていなかった香織。すると、再会するはずだった日に北川が書いたと思われる文面を見つけた。
『小学校1年の時、倒れた君を助けてから今10年が経った。3年前に一度だけこの駅で再会したが、今日この日、君を待っているが、約束の時間になってもまだ現れない。忘れたのか? それともオレのことが嫌いになったのか? オレが何をしたというのか? まさか…』
香織「克ちゃん…ゴメンな」
香織は記帳ノートを見て泣いていた。
そうしていると、次の丹国行きの電車が到着した。香織は電車を降りる乗客をつぶさに見ている。しかし、誰も乗客が降りなかった。時刻は9時15分。
香織は少しうつむいていた。
次の丹国行きの電車は約1時間後。香織は記帳ノートに何か書き込んでいる。
記帳ノートに書き込みを終えた香織は、待合室で北川が来ることを期待して待ち続けた。
香織(克ちゃん、本当に来てくれるんかなぁ…。迷ってるんかなぁ…。なんか緊張する…)
香織はそれから約1時間、次の電車を待ち続けた。
そして、次の丹国行きの電車が山口丹駅に到着した。時刻は10時20分。香織は2時間駅で待ち続けている。電車を降りた乗客はいたが、北川の姿がない。
香織(克ちゃん、私に会うのが怖いんやろか…。近くまで来てるんでしょ?)
香織は心の中で思いながら、どれだけ時間がかかっても、北川を待ち続ける…と強く思い、待合室で待ち続けることにした。丹国行きの次の電車は、また約1時間後である。
香織はずっと待っている間、北川とのこれまでのことを思い返していた。そして、文通のやりとり、3年前に今いる山口丹駅の待合室で再会したこと…。全ての思い出が淡い恋心になっていた香織だった。
ホームに目をやると、時折特急列車が通過していく。山口丹駅は無人駅なので、特急列車は停車しない。普通電車が来たかと思えば、反対方向の福町行きの電車だったり…と肩透かしにあっていた香織だった。
気分転換に改札口を通ってホームに出てみる。ホームと平行して線路が真っ直ぐに延びている。香織はそれをずっと見ていた。
その後香織は、待合室に戻って電車を待った。すると、次の丹国行きの電車が山口丹駅に到着した。時刻は11時30分。すると、1人の男が山口丹駅に降り立った。香織が男の顔をじっと見ると、北川だった。香織は顔を見て、満面の笑顔になった。
香織「克ちゃん❗」
北川「香織…」
香織「おかえり❗」
香織は思わず北川に抱きついた。北川は何も言わずに香織をそっと抱いた。2人は何も言わずにしばらく抱き合っていた。
北川「お待たせ」
香織「うん、待ってたよ克ちゃん」
北川「ゴメン、寝坊してしまって…」
香織「そうなん?」
北川「うん。昨日出雲から福町まで出てきて、福町のホテルで泊まったら、チェックアウトギリギリまで寝てて、めっちゃ寝坊した…(笑)」
香織「長旅やったからねぇ、仕方ないもんなぁ…」
北川「香織はホンマに昔から優しいよなぁ」
香織「ううん、克ちゃんだって優しいやんか…(笑)」
北川「それより、体調はどうや? 聞いたぞ、堀川って人から…」
香織「うん。大丈夫やで(笑) 堀川くんと話してどうだった?」
北川「香織、変わった同級生やな」
香織「なかなかいないでしょ?」
北川「『余計なお世話』なのに、なんであんなに香織のことをオレに…。しかも真剣に…。とうとう説得されてしまったわ。しかも、香織が体調不良で入院したことも教えてくれた。オレの為になんであそこまで…。不思議で不思議で…」
香織「わからないけど、一つだけ心当たりがあるんや」
北川「心当たりがある?」
香織「まぁ、それはともかく…。克ちゃん…」
北川「ん?」
香織「会いたかった」
北川「そうか。オレも会いたかった、香織」
香織「うん」
北川「あのな…」
香織「なぁに?」
北川「オレ、高校卒業したら、就職しようかと思う」
香織「そう」
北川「香織は進路どうするの?」
香織「短大行こうか、就職しようか考えてる」
北川「どこの短大へ行くんだ?」
香織「まだハッキリと志望校はないんだけど、近いところがいいかな…。京都か大阪か神戸あたりかな…」
北川「そうか」
香織「克ちゃんはどこで就職するの?」
北川「オレ、お母ちゃんも父親も死んでおらんから、オレは身一つや。どこでもオレは行くよ。オレ、就職して京都に戻って来ようかと思って…」
香織「そうなん? 手紙にも書いたけど、おばさんが亡くなったって聞いてたから、ずっとずっと気になってたの。克ちゃん何も教えてくれなかったから…」
北川「ゴメンよ。お母ちゃん、苦労してたから…」
香織「そうやったんや…。克ちゃんが近くにいたら、私が助けるのに…」
北川「香織…」
香織「克ちゃん…」
北川と香織が見つめあう。2人はしばらくの間、見つめ合っていた。お互い、秘めた思いが心の中にあった。そしてお互い意識し始めていた。
香織「克ちゃん、いつまでこっちにいるの?」
北川「明日帰ろうか…と」
香織「日曜日までいられない?」
北川「どうした?」
香織「ゆっくり話したい」
北川「けど、今日泊まるところが決まってない」
香織「だったら、ウチに泊まってよ。お母さんも許してくれると思うから…」
北川「でも…」
香織「大丈夫」
香織は公衆電話で自宅に電話をし、母親に北川の事情を説明し、北川を泊める段取りをつけた。
北川「悪いなぁ…」
香織「ううん、大丈夫。嬉しい(笑)」
北川「ところで、昼飯はどうする? 香織、学校じゃなかったのか?」
香織「そうだけど、今朝、堀川くんが途中駅で待ってて、
北川「そうか。弁当持ってきてないの?」
香織「今日たまたまお弁当なくて…(笑) どっか食べに行く?」
北川「ここは無かったよなぁ…」
香織「じゃあ、途中駅まで戻る?」
北川「そうするか」
こうして、北川と香織は福町行きの電車に乗り、途中駅まで戻ることにした。電車の中でも昔の思い出話や近況報告等、話は尽きなかった。
電車が途中駅に到着し、2人はショッピングモールの中にあるフードコートで、少し遅い昼食をとった。
その後、2人は香織の自宅に行った。
香織「ただいま」
香織母「あんた、学校は?」
香織「今日は公休なの。克ちゃんに会ってるから」
香織母「公休って、そんなアホなことを…」
香織「本当だよ。ほら公休届」
香織母「え、ホント…。あ、克ちゃん、久しぶり」
北川「ご無沙汰しております」
香織母「克ちゃん、色々と大変やったんやなぁ…」
北川「まぁ、なんとかなってます…(笑)」
香織母「そう…。あ、克ちゃん、あがって。香織、おやつ用意してるから」
北川「おじゃまします」
香織「どうぞ」
香織は北川を自室に案内し、おやつを差し出した。
香織と北川は昔話の続きを始めた。
北川「香織、それより体調はどうなんだ?
堀川から香織の体調のことを聞いたから… 」
香織「うん、おかげさんで元気になったよ」
北川「無理するなよ。ただでさえ体が弱いんやから…。香織のことを聞いていてもたってもいられなくて…」
香織「ゴメンな、心配させてしもうて(しまって)…」
北川「大丈夫。香織の顔見たから安心した」
香織「うん」
北川「お前、高校行かんとアカンのやないんか?」
香織「うん、そろそろ行ってこようかなぁ…。克ちゃんも校門まで行く?」
北川「香織が途中で倒れたらマズいから、仕方ないで、校門までついて行こか?」
香織「仕方がない? ホントは一緒に行きたいんでしょ?(笑)」
北川「う、うるさいなぁ…」
香織「(笑)。克ちゃん、照れてるとこ、かわいい(笑)」
北川「香織…」
北川は少しムキになっていたが、香織が優しく北川の頭を撫でた。
香織「克ちゃん、私の前で強がり言わなくていいからね。私、克ちゃんのこと全部知ってるから…」
北川「香織…」
香織「行こっか、克ちゃん」
北川「あぁ…」
こうして香織は北川と一緒に工業高校へ電車で向かった。
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