第9話 出雲で北川を探す真一と優香のことを考える香織と真一のことを考える優香
翌朝、工業高校では登校するいつもの光景が見られたが、優香は何事もなかったかように森岡と一緒に登校していた。村田は昨夜の優香との電話について、滝川と加藤に話しながら登校。白木たち男連中は真一の1ヶ月間に及ぶ不可解な動きについて、未だに首をかしげていた。
一方、出雲にいる真一は、朝食を済ませて、出雲大社を参拝した。
真一は出雲大社からそのまま出雲の街をブラブラ歩いていた。すると、北川の叔母が営んでいる女性店主のお茶屋の前に、一人の男が立っていた。お茶屋はシャッターが閉まっている。
真一は『まさか』と思い、香織から借りているシール写真を見て、顔を確認した。すると、その男は北川だった。真一はすぐに声をかけてみた。
真一「あのー…」
北川「…はい?」
一方、工業高校では、2時間目の授業後の中休みの時間に、香織が渡り廊下で滝川に話しかけていた。
香織「ちーちゃん」
滝川「香織ちゃん?」
香織「ちょっと聞いてもいい?」
滝川「何?」
香織「ゆうちゃんの事なんやけど…」
滝川「ゆうちゃんがどうしたん?」
香織「ゆうちゃんって彼氏できたの?」
滝川「そうみたいやなぁ…」
香織「3組の堀川くん?」
滝川「いや、2組の森岡くん」
香織「そうなんや…。堀川くんとめっちゃ仲良かったんと違うの?」
滝川「…ゆうちゃんと堀川くんは幼稚園の時一緒やって『幼なじみ』なんやって」
香織「そうなんや。てっきり付き合ってるんやと思ってた(笑)」
滝川「よく勘違いされるらしいわ」
香織「そうなんや。でもなんで幼なじみじゃなくて、また別の男の子となんやろなぁ?」
滝川「詳しくはわからんけど、ゆうちゃん、森岡くんに告白されたらしいよ」
香織「それで、付き合ったんや…」
滝川「みたいやで。どうしたん、ゆうちゃんに何かあったの?」
香織「ううん、ただ気になっただけやから…」
滝川「そっかぁ…」
香織「ゆうちゃんは堀川くんのことは何も思ってなかったんやろか?」
滝川「全くないわけではないけど、堀川くんはゆうちゃんのこと『幼なじみ』としか思ってないみたいで、ゆうちゃんも表向きには同じ意見やけど、実際は思ってたこともあったかもしれんなぁ…」
香織「そうかぁ…」
滝川「そういえば、香織ちゃんも先月、堀川くんと仲良く話してたやんか…」
香織「あぁ、あれは廊下で出合い頭でぶつかってしまって…。ただそれだけなんや(笑)」
滝川「そうやったんや…」
香織は優香がなぜ真一ではなく、森岡と付き合いだしたのか、確認がしたかったのだった。
その頃、優香は村田と別の場所で話していた。
村田「やっぱり、私が唆したのが原因で、ゆうちゃん、堀川くんとこんなことになってしまって…」
優香「ううん、私が最終的に決めたことなんやから、くーちゃんは悪くないよ。私の判断や。それに、もう後にも引けないし、私、森岡くんと付き合ってるから…。ええんや、堀川くんのことは。堀川くんも男の子なんやし、もっと積極的にならんと…。これで少しはわかったんとちゃうかなぁ…」
村田「ゆうちゃん…」
優香「もう、いつまでも幼稚園の時とは違うんや。もう大人やし、その辺わきまえんとアカンわ」
村田「そんな強がり言うていいの? ホンマに堀川くんとこれっきりになってしまうよ…」
優香「もう、ええんや…。何か色々動き回ってるし、私のことも忘れられるようになって、好都合なんとちゃうか…」
村田「…………」
一方、出雲にいる真一は、北川と出雲大社の境内で話していた。
真一「オレ、堀川と言います。山口丹の山下さんから頼まれて来たんや」
北川「香織から?」
真一「うん」
北川「あんた、香織とどういう関係なんや?」
真一「山下さんが、この前あんたと山口丹駅で再会する日、体調不良で山口丹へ行く途中、電車の中で倒れたんや」
北川「え❗」
真一「それで、たまたま山下さんが倒れたときにとなりの席に座ってたのがオレやったんや。後で同じ高校の同級生やったこともわかった。それ以上何もない」
北川「あんたが香織を助けてくれたんか?」
真一「救急車で丹国病院まで付き添わされた」
北川「そうやったんか…。すまなかった。で、香織はいまどうなってるんや?」
真一「回復はしたものの、また体調不良で、この前まで途中町病院に入院しとった。昨日から高校に通ってる」
北川「そうか…。それであんた、オレに何の用や?」
真一「山下さんから、手紙を預かっとる。これをあんたに渡しに来た。この前会えんかったから、『会いたい』って…」
北川「そうか…。遠いところすまなかった」
真一「それでなぁ、ちょっと話したいことがあるんや」
北川「何や?」
真一「……………」
一方、工業高校では、放課後になっていた。
図書館で優香と村田、滝川、加藤が話していた。
滝川「あのな、今日、中休みの時に香織ちゃんから話聞いたんやけど…」
村田「香織ちゃんから?」
加藤「何かあったの?」
滝川「この前、香織ちゃんが堀川くんと話してたことがあったやんか」
加藤「うん」
滝川「あれ、出合い頭にぶつかってしまって、『大丈夫?』って話していただけやって」
優香「そうなんや」
滝川「あ、香織ちゃんに聞かれたよ。『ゆうちゃんは堀川くんと付き合ってるんやなかったんや…』って…」
優香「…………」
滝川「私が『ゆうちゃんと堀川くんは幼なじみや』って、言っておいた」
優香「そう…」
村田「…………」
加藤「ゆうちゃん、元気ないやん。堀川くんのこと、ホントは気になってるんでしょ?」
優香「そんなことないって。第一、いまどこかに出張中なんでしょ。忙しいだけやって。私も知ったことやないから…」
村田「ゆうちゃん…」
その頃、工業系職員室に電話が鳴る。
野島先生「鈴木先生、電話です」
鈴木先生に電話が代わる。
鈴木先生「電話代わりました」
真一「堀川です」
鈴木先生「おう、どうやそっちの状況は?」
真一「もうちょっとですなぁ…」
鈴木先生「出張は明日までやぞ。見つかるんか?」
真一「さぁ、どうですやろなぁ…」
鈴木先生「お前なぁ、ええ加減なこと言うなよ。あ、加島来たからちょっと待っててくれ」
鈴木先生はあわてて電話を置いた。優香が鈴木先生のところにやって来た。
優香「先生、ご用ですか?」
鈴木先生「あ、大学の事なんやけどなぁ、オープンキャンパス行かへんか?」
優香「そうですね…。少し考えさせてください」
鈴木先生「わかった。行くならワシに声をかけてくれ」
優香「わかりました。失礼します」
優香が去っていくのを見て、再び電話をとる鈴木先生。
鈴木先生「すまん、すまん。ほんで出雲で本人見つかったんか?」
真一「どうなんですかね…」
鈴木先生「何や、収穫なしか? お前、公休使って見つからんかったらワシの顔面目丸つぶれやぞ」
真一「わかってます。また連絡しますわ」
鈴木先生「あぁ…」
鈴木先生が電話を切った。
鈴木先生(ホンマに大丈夫なんか、アイツ…。明日見つからんかったらどうするつもりなんや?)
その頃、工業系職員室から図書館に戻る途中の優香は、一人で考えていた。
優香(香織ちゃんと廊下で出合い頭にぶつかってから、何か様子がおかしかった。鈴木先生と真面目な顔して話していた…。香織ちゃんから何か言われたんやろか…? 真一くん、一体何があったの?)
そして出雲では、真一と北川が2人で香織のことについて話していた。
真一「あんたに聞きたいことがあるんや」
北川「なんや?」
真一「山口丹駅のことなんやが…」
北川「山口丹駅のこと?」
真一「記帳ノートのことや」
北川「…………」
真一「なんで、熱心に記帳ノートを駅に置くように要望したんや?」
北川「なんで知ってるんや?」
真一「山下さんから聞いた」
北川「駅の伝言板の黒板が壊れてたからや」
真一「それだけか?」
北川「どういうことや?」
真一「あの子(香織)の為やとちゃうんか(違うのか)?」
北川「………なんでや?」
真一「福町駅で過去の記帳ノートが保管してあって、特別に許可を得て閲覧させてもらったんや。そしたら、あんた、あの子の為に書き記してたやないか。伝言板では6時間を過ぎたら消されるから、記帳ノートにせんとアカンかった…」
北川「なんでそこまで調べてるんや?」
真一「『なんで?』て、そもそも今回の事の発端はあんたが消息不明であるからや」
北川「………………」
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