第8話 新学期スタート…真一、再び出雲へ
真一たちは3年生となり、波乱のスタートとなった。
新学期が始まり、またいつもの光景が見えるようになったが、真一と優香の関係は平行線のままだ。
優香は快速電車で高校駅に通学し、森岡と一緒に登校する。真一も初日は考え事をしながら一人で快速電車に乗って登校した。
森岡「堀川も乗ってきてるやないか」
優香「うん。でも何かずっと考え事してるみたい。やっぱり何かあったんやわ。だからあえて声をかけてないんや」
森岡「そうか…。どうするんや?」
優香「…しばらくそっとしておいた方がいいと思う」
森岡「そうか…」
森岡は内心笑っていた。真一と優香の関係がこのままでいくと終わると思っているのだ。
一方、真一は工業高校に到着するや否や、工業系職員室へ直行した。鈴木先生と話すためだ。
真一「おはようございます」
鈴木先生「おう、春休み中、ご苦労さんやったな」
真一「それで新学期早々お願いがありまして…」
鈴木先生「何や?」
真一「公休もらいたいんですけど…」
鈴木先生「公休? なんでや?」
真一「もういっぺん(もう一回)出雲へ行かせて欲しいんです」
鈴木先生「そんなもん、普通に休みとれや」
真一「そんなぁ…。先生とこ(の所)の生徒のために、オレの授業時間を割かれて、挙げ句のはてに『普通に休みとれや』ですか? ほな、行きませんわ。その代わり、今日から山下さん登校しますけど、またショックで体調不良になったら、今度は先生の責任ですからね…」
鈴木先生「何やて? ワシを脅してるんか?」
真一「脅してまへん。事実を伝えてるだけです」
鈴木先生「……またまた、うまいこと言いやがって…」
真一「ちゃんと電気学科へは仁義通しておいてくださいよ」
鈴木先生「…わかった。ちょっと待っとけ。また連絡する」
真一「わかりました」
公休とは、体調不良等、自己都合での休みではなく、就職・進学活動や公的行事等に参加する際に適用される休みで、内申書上では休みにならない休みのことをいう。
真一は鈴木先生のクラスの香織の話で、自己都合ではないと主張していたのだ。
進級・新学期になっても、真一は授業中以外は図書館や同じクラスの友達とも話をしなかった。友達たちは真一に声をかけるチャンスを探していた。
坂本「さすがにこのままではマズいんやないか?」
藤岡「もうすぐこの状態も1ヶ月が経とうとしてるしなぁ…」
佐野山「手立てはないんか?」
寺岡「そっとし過ぎたか…」
坂本「ホンマに頑固やなぁ、堀川。こんな時にアイツを説得できるのは誰なんや?」
寺岡「一人しかおらんやろ」
藤岡「その一人と先月からギクシャクしてるやないか」
佐野山「白木は何か言ってたか?」
坂本「いや、何も聞いてない」
その日の放課後すぐに校内放送が入る。
(♪ピーンポーンパーンポーン)
鈴木先生「生徒の呼び出しをします。3年5組加島優香さん、3年5組加島優香さん、工業系職員室の鈴木のところまで来て下さい。引き続き生徒の呼び出しをします。3年3組堀川真一くん、3年3組堀川真一くん、お手すきになられましたら、工業系職員室の鈴木のところまで来ていただけないでしょうか。よろしくお願いします」
この放送を聞いて、図書館にいる面々がぼやく。
森岡「何や、今の放送は❗」
村田「呼び出し方がなんで違うの?」
坂本「アイツ、何か鈴木先生の弱み握ってるんか?」
白木「何かあるな、堀川…」
しばらくして優香が戻ってきた。
森岡「堀川は?」
優香「知らない」
滝川「会ってないの?」
優香「うん…」
森岡「何の用事やったん?」
優香「わたしは進路のことで…」
森岡「この春休みの間に堀川が福町駅におったのを見たんや」
村田「えっ?」
優香「それに、途中駅で電車降りたのも見たんや」
白木「途中駅で電車降りた?」
藤岡「謎が謎を呼んでるなぁ…」
森岡「春休みの間に、アイツ何か動いてるなぁ」
優香「何かあったんかもしれん…」
真一の春休み中の行動に戸惑いを隠せない面々だった。
その頃、真一は呼び出された鈴木先生と会っていた。
鈴木先生「公休、承認されたぞ」
真一「おおきに、すんません」
鈴木先生「ただし、3日間や」
真一「了解しました。ほな明日火曜日から行きますわ」
鈴木先生「明日?」
真一「ちょっと時間おまへんのや(ありません)…」
鈴木先生「わかった」
真一は公休の手続きを済ませ、保健室の大川先生にも報告した。
翌朝、真一は始発電車に乗って出雲を目指した。
優香たちはいつものように、快速電車または普通電車に乗って通学した。
朝のホームルームでのこと。真一のクラスでは担任の藤田先生が連絡事項を伝える。
藤田先生「えー、堀川が今日から明後日まで学校の諸用で出張の為、公休です」
クラス中がどよめく。坂本や藤岡たちは呆気にとられていた。
その日の昼休み、図書館でいつもの面々が話していた。
坂本「堀川、明後日まで公休やって」
白木「なんでや?」
寺岡「学校の諸用で出張やって」
森岡「出張?」
優香「…………」
佐野山「なんかもう、堀川の行動が全くわからんようになってきたなぁ」
藤岡「絶対何かあったんやで」
村田「ゆうちゃん」
優香「何?」
村田「心当たりないの?」
優香「ないなぁ…」
滝川「先月からおかしいって。鈴木先生と連絡とりあってるし…」
加藤「ゆうちゃん、どうなってるん?」
優香「私もわからんのや…」
白木「加島、ホンマに心当たりないか?」
優香「…ないよ。でも…」
滝川「でも?」
優香「春休みの間に、堀川くんが丹国行きの電車に乗っていたり、途中駅で電車降りて改札口出たら、もう姿がなかったり、福町駅の窓口で駅員と話して奥の部屋に入っていったり、梅沢駅で電車の運転士さんとホームで何か真剣な顔で話してたり…。とにかく、ようわからんのや…」
森岡「さすがに、誰もアイツの行動に首傾げるよなぁ…」
白木「………」
優香「………」
優香たちも真一の行動に皆目検討つかなかった。
一方、公休を取得して出雲へ向かっている真一は、電車が出雲市駅に到着したのは昼だった。出雲に着くや否や、昼食で出雲そばを食べて、北川の叔母である出雲大社近くのお茶屋(甘味処)へ向かった。
お茶屋では、前回と同じようにぜんざいを注文して食べる真一の姿があった。食べている真一を見た、北川の叔母である女性店主が声をかけた。
女店主「堀川くん」
真一「あ、先日は失礼しました」
女店主「またいらっしゃったんですね」
真一「はい…。ぜんざいがちょうどいい甘さで美味しいですね」
女店主「ありがとうございます(笑) ところで今日は何か?」
真一「克也くんの叔父さんの事なんですが…」
女店主「…………」
真一「ひょっとして、克也くんは叔父さんのところ(にいるの)ですか?」
女店主「……ええ…。そこまでご存知なんですね…」
真一「京都(山口丹)でお聞きしました」
女店主「そうなんですね…。それじゃあ、仕方ありませんね…。克也は叔父、つまり私の弟の所に懐いているんです。克也の母親、つまり私の姉と弟は仲が良くて、勿論私とも仲が良い。でも、叔父という立場が克也にとって心強かったのかもしれません」
真一「どうして叔父さんの存在を隠されていたのですか?」
女店主「克也の父親が借金をしていたので、保険金で完済したとはいえ、また何か金貸しが何か言ってくるんじゃないかと心配していて…」
真一「そうやったんですね…。あのぅ、克也くんは今どちらにいらっしゃいますか? 京都時代の同級生が克也くんを探しています。どうか、教えていただけないでしょうか?」
女店主「…わかりました。でもくれぐれも…」
真一「心得ております」
そして、真一は女店主から北川の居場所を聞いた。しかし夕方に近づいていたので、明日訪ねることにした真一だった。真一はビジネスホテルにチェックインをした。チェックイン後、真一は公衆電話で香織にポケベルに文字を打ち込む。
『スコシデンワデキナイカ』
しばらくして自室の電話が鳴り、電話をとる真一。
真一「もしもし」
フロント「フロントでございます。山下様よりお電話です」
真一「繋いでください」
フロント「どうぞお話ください」
真一「もしもし」
香織「もしもし、堀川くん」
真一「あぁ、ゴメンな、ポケベル鳴らして」
香織「ううん、大丈夫やで。それより克っちゃん見つかりそう?」
真一「もうちょっとかな…」
香織「そうなんや…。ゴメンね、私のために出雲へまた行ってくれて」
真一「大丈夫や。あ、鈴木先生にだけは少し話してあるから…」
香織「あ、今日鈴木先生から言われたんや」
真一「何を?」
香織「堀川くんが私のために出雲へ行ってるって…。しかも誰にも感づかれてないみたいやね」
真一「公休扱いやでなぁ。『出張』扱いやで(笑)」
香織「あのね、今日教室でゆうちゃん(優香)とかくーちゃん(村田)達が、ヒソヒソ堀川くんの話してたの、聞こえたんや」
真一「そうなんや」
香織「ゆうちゃん、ちょっと元気なかったわ…」
真一「そうなんや」
香織「電話してあげたら?」
真一「なんで? オレ関係ないやん。それに優香さん、彼氏いてるんやで、彼氏に甘えたらええんとちゃうか?」
香織「堀川くん、ホンマにそれでいいの?」
真一「オレは関係ないやん。ただ、幼なじみやっていうだけで…」
香織「なんでゆうちゃんと仲悪くなったん?」
真一「さぁ…。彼氏が出来たから、忙しいんとちゃうか? 別にオレは何とも思ってないけど。それにオレは恋愛に興味ないから…」
香織「なんで興味ないん?」
真一「『なんで?』て、興味ないから興味ないんや(笑)」
香織「ホンマにそれでいいの?」
真一「興味ある人が興味もったらええやん。興味ない人間が興味持たなくても不自由してへんし、別に誰にも迷惑かけてへんし…」
香織「堀川くん、ゆうちゃんとホンマにホンマにそれでいいの?」
真一「オレ、そこまで干渉することないやん。ただ幼稚園の時に、となりの席やっただけで、同級生やっていうだけやんか(笑)」
香織「じゃあ、なんでゆうちゃんが今日元気なかったの?」
真一「それはオレも見てないからわからんわ。それに、これからは優香さんのことを気にかけてやらなアカンのは、オレやなくて彼氏(森岡)やろ?」
香織「堀川くん…」
一方その頃、村田が優香と電話で話していた。
村田「ゆうちゃん、堀川くんのことなんやけど…」
優香「何?」
村田「カマかけたの、裏目に出てしまって…。私が唆したから、堀川くんやなくて森岡くんと…」
優香「いいよ、もう大丈夫やから。私は森岡くんと付き合ってるから…」
村田「ホンマにそれでいいの?」
優香「…真一くん、何も気にかけてくれなかったから…。もう、ええんや…。不器用やし…」
村田「強がってないで、ホントの気持ち教えて」
優香「真一くんはそれまでの男の子やった…ってことなんやから…」
村田「ゆうちゃん…」
電話を切った後、少し元気がなかった優香だった。
優香(ますます離ればなれになってしまう…。もう幼稚園の時みたいなことは無いんやろなぁ…)
出雲で北川を探している真一と、北町の自宅で真一と森岡のことを考えている優香は、なかなか寝つけられなかった。お互い、それぞれの悩みについて考え込んでいた。
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