第5話   舞踏会

「素敵です! ローズ様! お綺麗です!」

 私の担当の侍女達が声を合わせてそういった。

 全身鏡には、装飾の白い花が散りばめられた青いドレスを着て、金髪の髪は編み込みをして結い上げられ、ドレスと同じ白い花が髪にもちりばめられている。

 フワッと広がるドレスの裾は、グラデーションになっていて、左側だけ3段のフリルがついた斬新なデザインでアシンメトリーになっていた。

 思わず自分でみとれてしまった。公爵令嬢ともなると、ドレスを着る機会は多いが、こんな斬新で美しいデザインのドレスは、今まで着たことがなかった。

 お化粧は、目元にアイラインを引いて、いかにも悪役令嬢に見える吊り目も猫目のような魅惑的な目元になっていて、侍女の悪ノリで泣きぼくろまで書き足されて、キツい目も儚げに見える。唇は清楚に見える淡いピンクの口紅を引いた私が写っていた。

「きっと、このドレスをプレゼントしてくださった殿下も見惚れてしまいますね!」

 若い侍女が、興奮してそう言った。

「ありがとう。ユイナ」

 私は、自分の事のように喜ぶ侍女に、ふふっと笑ってそう言った。太陽の様に笑う彼女の明るさに、王妃教育の過密スケジュールで疲れていた私はいつも癒されていた。

「ユイナ、淑女が、そのように笑うのははしたないですよ」

 と、いつも彼女は侍女長にたしなめられてはいるけれど。

「さあ、そろそろ参りましょうか、殿下をお待たせしてはいけないわ」

 そう言って、殿下の待つ応接室へ向かった。


 応接室のドアを執事が声をかけて開けると、白い軍服の清楚の出立ちで、金の髪を後ろへ流し、長い足をもてあますように組んでイスに座ったレオン王子に思わず見惚れてしまった。

 やはり、メインの攻略対象だけあって、イケメンすぎる。

 彼の宝石のような青い瞳は大きく見開かれていて、私を見つめていたので、思わず恥ずかしくて、目をそらせた。

 すると、レオン王子はスッと私の前まで来ると、片膝をつき、流れるような動作でわたしの手の甲にキスをした。

「レオン様?」

「許しもなく触れてすまない。君が美しすぎて、つい」

 彼は、そう言って眩しいぐらい美しい笑みを浮かべた。なんだか、プロポーズの仕草のようで、私は顔が熱くなり瞳が潤んできた。

 すると、彼は私の手を取ったまま立ち上がって、「ふれていい?」とかすれた声でささやくと、次の瞬間には、レオン王子の手が私の頬を包み込んで、長身の彼がわたしの顔を覗き込んでいた。

「他の男の前で、そんな顔しないで」

「レオンさま?」

「わかった?」

 恐ろしいぐらいの美貌を近づけて、今にもキスをしそうな距離でそう聞かれて、自分の鼓動の高鳴りに耐えられなくなった私は、一歩下がろうとしたが、鍛えられた彼の腕が背中に回されていて、ぐっとまた距離が近くなって、彼の唇が私の唇に柔らかくふれた。

 何度かついばむような口づけをして、ふっと離れてた彼は少し名残惜しそうに微笑んだ。

「このへんにしておかないと、君をこのまま攫ってしまいそうだ。……そろそろ、出発しようか」

 その後、彼にエスコートされ、王家の豪華な馬車に乗り、舞踏会の会場となるお城へ向かった。

 ピッタリ隣に座ったレオン王子は、ずっと私の手を離してくらなかった。剣ダコのできた彼の大きな手は、心地よくなんだか落ち着いて、つい、うとうとしてしまい。

「ふふ、このままでもかまわないけど、そろそろ降りないと従者達がこまってしまうよ」

 そう言って、唇にチュッと軽く口づけられて、私はハッと目が覚めて、さっと青くなった。

「……申し訳ごさいません。わたくし、つい心地よくて、うとうとと」

「かまわないよ。君も王妃教育で疲れているだろうから。僕といる時は、そうやって気を許してくれている方が嬉しいよ」

 彼はそう言って、笑って許してくれたので、ホッとした。

 王子にエスコートされながら馬車から降りて、会場へ向かう途中、全身ピンクの令嬢?が走りにくいドレスなのにものすごいスピードで向こうからやって来て、ぶつかりそうになったが、王子つきの騎士団に阻まれ、あわや切られそうになっていた。

 ……確かにゲームで、ぶつかって怪我をしたヒロインを気遣った王子が彼女をエスコートするシーンがあるけれど。

 現実では、ありえない。まず、彼の周りには優秀な護衛が常時付いている。

 ぶつかると言う事自体ありえないのだ。

 ゲームとの違いに私は少しホッとする。

 大丈夫、断罪エンドにはならないわ!

 しかし、このヒロイン、頭悪いのかしら?

 普通に考えたら分かる事よね。いくら庶民から男爵令嬢になったばかりとはいえ、庶民でもそんな恐れ多い事はしない。

 ……いや、まさか、彼女も転生者?

 それなら、この行動も納得できるかも。

 しかも、あのゲームを知ってるからこんな行動に。

「まったく、あの女はなんなんだ。いつも行く先々に現れる。最初は間者かと思ったが。どうもそんな感じてはないみたいだしな」

 一応同じ学園の生徒と言うことと身元がはっきりしている事もありヒロインは会場から追い出されただけてで、彼女の父である男爵に抗議すると言う事で、拘束する事はしなかった。

 が、レオン王子は彼女に対して、好意どころか、凄く迷惑しているようだった。

 ゲームでいうところのバッドエンドになりそうなヒロインに少し同情するも、あくまでこの現実をゲームとしかとらえてない彼女の異様な行動に違和感といか、妙な気持ち悪さを感じた。

 現実をみて行動すれば、もしかしたら、ゲームのような恋愛も出来るかもしれないのに。

 

 ひととおり挨拶回りを終えると、ダンスタイムに入る。王と王妃はいつもダンスをされないので、一番手はレオン王子とその婚約者の私となる。

 沢山の視線が集まる中、いいタイミングで音楽と共に踊り出す事が、出来た。

 




 


 

 

 

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