第4話   夢

 夢を、みていた。

 やけに、リアリティのある夢だ。


 私は処刑台の硬く冷たい石の上に、無理やり跪かされていた。

 ゾッとする大きな目の前のギロチンの吊るされた刃物が、冬の冷たい光に反射して、益々恐怖心をあおる。

 むき出しの両手足はもはや寒さに感覚が痺れてきていた。

 着ているものは、夏の白いワンピース。私の薄汚れて、傷だらけの肌とは違い、真新しいそのワンピースは少し滑稽に見える事だろう。

 処刑の日は好きな服を着る事を許された。

 ふと、私は向こうに目をやった。処刑台が見える位置に置かれた豪華な椅子に、先程やってきた王とその横にはレオン王子が着席した。それまで無機質な冷たい顔をしたレオン王子は、わたしの姿を見て一瞬目を大きく開く。

 わたしは、薄くほほえんだ。

 ここに来る前に、私は手紙を、牢屋に残して来ていた。レオン様に宛てた手紙を。


『レオン様。

 覚えていますか?あの夏の日を。まだ、あたながわたくしを愛してくれていたあの日。わたしはあなたと、初めて結ばれて幸せでした。

 だから、その幸せな気持ちを抱いたまま死にたいと思います。

 ……さようなら、愛しい人。

 もはや、涙さえ乾いてでてきません。

 ……後悔と憎しみをずっと抱えていましたが、もう、疲れ果ててしまい。

 残ったのは、あなたへの愛、ただそれだけです。どうか、お幸せに』


 やがて、わたしの手と首は木の枠に固定され、冬の冷たいあおぞらにザシュという音が響く。

 最期に見たのは、血塗れになった白いワンピース。

 最期に、レオン王子が止めようとする声がした気がするが、それは、都合のいい幻聴かもしれない。


   *** ***


暖かな光に目を覚ますと、目の前に天使がいた。

 やはり、ここは天国なのだろうか?

 ん? よくみると、その天使はレオン王子によくにているような。

「ローズ? 目が覚めたかい? 先生を呼んでくるから待っていて」

 ここちよいバリトンボイスでそう言って、立ち上がろうとした彼の袖を、思わず掴んでいた。

 そしてわたしは、少し息を吸い込んで、自分が生きている事を実感しつつ、あれが夢である事にホッとした。

 「どうしたの?」

 私を気遣う声に、返事をした。

「ごめんなさい。このままでいてください」

 必死に彼をみつめた。あんな夢をみたのもあって、彼に少しでもそばにいてほしかった。

 ふと、彼の手が伸びて、わたしはいつの間にか彼の腕の中にいた。

 とてもあたたかくて、生きてる実感がして、涙が出そうになった。

 そして、近づく彼の薄い唇を私は幸せな思いで受け入れていた。

 はじめての口づけは、彼のつけている甘く優しい香水の匂いがした。


 

 

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