女友達の呪いと闇

幽山あき

偶像崇拝と陶酔

「ずっと一緒だよ」

「もちろん!」


総約束したのはもう何年前だっただろうか。

私達二人は親友同士のまま、今の今まで生きている。


そして今日から、二人でアイドル活動を始める事になったよ。


事の始まりは、半年前。


「私、かわいくなりたい」

唐突にそんなことを言い出す瑠奈(るな)


「十分美人だと思うけど」

いつもの唐突な思いつきだと思って私は聞き流した。

「聞いてる???」

「聞いてる」


彼女の言い分的には、可愛いと言われたことが少ないから可愛くない。だから何か方法を教えてくれ。とのこと。


もともと彼女は背も高く、どちらかと言えば整った顔立ちだ。

一方私は、背が小さくて幼く見られることが多かった。だからこそ、彼女は可愛いと言われないことに過敏になったのだと思う。


「なら可愛くなれば?」


そんな私の提案から始まった、未来への賭け、希望だった。


ずっと二人でいると約束をしていた私達に、周りが許すいい方法。それがアイドルになる、二人で活動するという形で叶えられる。そんな、まるで夢のようなことを始める事になった。




まず二人でメイクの勉強をした。

自分たちの顔を調べに調べ、自分の良さ、長所を知った。

短所ばかりが見えて苦しくなるときはお互いに誉めあって乗り越えた。


次に服装を変えた。

二人の個性を活かす、ユニットになっても違和感のないギリギリを探した。

印象が似てしまわないように、それでも自分の着たいものを探して。


それから自分たちを売り出し始めた。

オーディションを受けて、SNSをして、自分にできる活動をすべて行って、全力で活動した。


そんなとき、私達のアカウントに一通のスカウトメールが入った。


「こんにちは。お忙しい中このメッセージを見ていただきありがとうございます。お二人の活動を受け、ぜひ弊社で活動していただきたいと……」


そんな内容のメールに、自分たちから売り出してきた私達は飛んで喜んだ。

スカウトが来るなんて到底思っていなかった。

あまりにいい話なので不安に思い、その会社を徹底的に調べた。


そこは、


あまりにちゃんとした、いい評価ばかりの会社だった。


喜んだ瑠奈は大泣きして、私達はそこで活動することになった。


もともとどちらかといえば何でもそつなくこなせる方だった私は、歌やダンスパフォーマンスについてそこまで苦労することがなかった。小柄であるからこそ可愛らしい動きに見えると言うのも良かった。

一方、どちらかといえば頭で理解するより体で覚えるタイプだった瑠奈は何度もくじけて泣きながら必死に練習していた。


サラリとこなすアイドル気質の私と、努力家のがむしゃら瑠奈。それはそれで、どちらもいいファンがついていった。

配信で、私と瑠奈の練習風景を流せば沢山の応援コメント。私も瑠奈の努力をひしひし感じていたからこそ、手伝えることはすべてやった。


伊達に一生を誓った友情ではなく、血の涙を流すほど苦しいときも、お互いのために。それを考えて生きてきた。



つもりだったのだ。


私にとっては、それが全てで人生をかけるほどの思い入れがあった。



「ねぇ、そろそろ普通になろう」


アイドルを初めて2年。初年は新しいファンがつくものの、だんだんと勢いは収束していき、地下アイドルを続けていた。


「普通、って?」


言葉に詰まる私。


「普通に学校行って、普通に就職して、結婚して、子供作って。十分、楽しんだし。」


笑顔でそんなこと言う瑠奈に、言葉を失った。

私達にとって、こんなにも思い入れの差があると、思ってもいなかった。私が勝手に同じくらいの未来を想像していると思ってしまっていた。彼女にとって、思い出づくりの一環でしかなかったのだろうか。


「考えさせて。」


そう返すのが、精一杯だった。


とりあえずSNSで体調不良と伝えてほんの少しの休暇をとった。


その間身バレに気をつけつつ好きなことをした。

久しぶりに買い物に行って、旧友とテーマパークに行って、家族と食事に行った。

すごく充実していて、でも、その中でもっと活動したいという感情がじわりじわりと滲んでいた。


ある日、いつもの服屋に買い物に行った。

いつも通り店員さんと話し、次の衣装の相談をしていた。


そこで私は、見てしまった。


仲睦まじく歩く、瑠奈と、男性を。

なぜわざわざ私のいつも服を買う場所に来る意味も、私が何も知らないことも、その曇のない楽しそうな顔に頭の中がめちゃくちゃになった。



瑠奈が辞めたいといった理由は、男性ができたから。そう思ったとき、とてつもない吐き気に襲われた。


「アイドルとかやってらんない」


「そりゃなぁ。相方があれじゃ特にね」


「いつまで夢見てるのかわからないし、私もいい加減好きな服着たい〜。」



聞こえてきた会話はあまりに絶望的で。いくら身バレをしないようにしているとはいえ、気づかないはずのない状況で視界にすら入っていない盲目さ、自分の小ささに、何もかもを失ってしまった。


そそくさと店を出て、家に帰る。


自宅に残る、初期の衣装。

昔から大切にしてきたおそろいのアクセサリー。思い出の写真。全てに身が焼かれるような感覚になる。



私は本当に気を病んだ。療養として休む時間はどんどん伸び、瑠奈とも疎遠になっていった。

私から何か聞くこともなく。当たり障りのない会話をして。

瑠奈はこのまま蒸発するつもりのようだった。



もう何もできない。


ファンには気を病んだ私が関係者壊したと思われる。

こんな状態で事務所がなにも言わないわけもなく、こんな私に何を言っても無駄だと判断し、瑠奈の判断に任せ、このまま解散となる運びになった。



約束も、描いた未来も、何もかも失った私は、破壊衝動に襲われる。

部屋から彼女の面影を消し去った。SNSも全て消して、ネットからも離れた。徐々に部屋からも出なくなって、世間からも離れた。


それでも頭から、あの男と瑠奈の光景が離れなかった。



苦しい。苦しい。苦しい。

全部壊れろ。




私は、瑠奈の彼氏に近づいた。


アイドルでの才能がこんなところで役立った。瑠奈にないものを持つ私を男はすぐに受け入れた。アイドルである瑠奈にしか、興味がなかったらしい。

穢らわしい。


瑠奈はもちろん何も知らない。

気づけるような子じゃないのだ。


段々と私に依存をさせて、瑠奈と会うことをやめさせた。

男はどんどん私に貢ぐようになった。

もらったものに興味はない。愛などなかった。


「ご、ごめんね、今月もう厳しい」


男のその言葉に、笑顔で別れを告げた。

瑠奈にこれをバラすと言えば何も言い返されなかった。そして、元アイドル二人に手を出したとなればネットは炎上であろう。



寂しくなったのだろうか。

瑠奈から連絡が来るようになった。


わざと、男にもらったものを身につける。

瑠奈が家に来る前にわざと影を残す。



家に来て話しているうちに向こうから


「これ、なに?」


「なんでもないよー。貰い物。」


一生の友情など、とっくに失っていた。


彼女はすぐに帰った。見たこともない顔面蒼白。震えている手。


あちらが隠していた上で、私に言えるわけもなかった。



そのあたりで私の鬱はかなり悪化していた。






それでもまだ許せない

私の人生を壊した女



活動していたときの名前でSNSを始める。


そんなにすぐに広まりはしなかった。

しかし顔を出せばそこそこ昔のファンが帰ってくる。


【告白、皆様を裏切った事について】


そんな旨のブログを書いた。

もちろん内容は瑠奈の恋愛について。


記事はすぐに拡散され、すぐにネットではあいつが叩かれ始めた。


あいつはもう、外にすら出られないだろう。



次の記事では男の顔も晒した。


私は可哀想な、悲劇のヒロインだ。



『少し話がしたい。』


とだけ、メッセージが入っていた。

もちろん返さない。無視して、また今日も記事を書く。

毎日毎日、アイドルをしていたときよりも反応がもらえる。私のファンが増えていく。心の傷を癒やしてくれる。


なんて気持ちがいい。




瑠奈から電話があった。



無視をした。

いきなり、瑠奈は配信を始めた。



私に寝取られたこと。

そして、


今から飛び降りるということ。



何度も何度も電話をかける。

配信から聞こえるコール音。

画面には、どこかの屋上で笑う瑠奈


ふわり


その瞬間、配信は終わった。


たくさんの誹謗中傷が届く。

男も、半狂乱になって自殺したそうだ。



いつからだろうか。

こんな事になったのは。そして、こんな事になっても何一つ思わなくなったのは。



『お疲れ様でした!』


そう書き残し、SNSを閉じた

高いところは心地いい


これが全て望んだ結果


私の希望であり、救い


風が気持ちいい。





痛みも、感じないんだなぁ。




「ずっと一緒だよ」

「もちろん!」


昔の私達は、笑ってた。

そして今、私は笑顔で終わりを告げた。


人生、お疲れ様でした。

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女友達の呪いと闇 幽山あき @akiyuyama

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