2.病院にさえ着ければ割となんとかなる、と思いたい。

Side:???

……………………

 お腹が焼けるように熱い。それなのに寒くて寒くて堪らない。息が上手く出来ない。如何して?理解わからない、考えが纏まらない。と意識が傾く。意識が昏い闇に呑み込まれそうになるのを、なんとなくそれは不味いと感じ必死に抵抗を試みるが抗えない。昏く深い闇に意識が落ちていく。刹那、何か温かい光が見えた。その優しい光を見たあたしは少し安心する。


「だ……うぶ……!きゅ……よんだから……!すぐ………ら………!がんばって……!」


 声が最後に聴こえたところであたしの意識は闇に落ちていった。


……………………


 気がつくとあたしは見知らぬ天井を見ていた。少し体を起こそうとすると腹部に痛みが走る。


「う……!」


 顔をしかめてゆっくりと上体を起こすと見知らぬ少女の寝顔が見える。あたしが寝ているベッドに突っ伏しながら椅子に座って寝ている。

 ここは病院のようだ。あたしは少し混乱しながらこの状況になった原因を考えてみる。朝、あたしは夏花高校の入学式のために学校に向かっていたはずなのだがそれ以降の記憶がどうもあやふやになっている。少し考えながら目の前の少女を観察ながめた。くせっ毛のある茶色がかったショートヘアに切れ長の瞳、健康的に朱の入った肌に可愛らしいピンク色の唇。何となく仔犬のような印象を受ける少女だ。その可愛らしさに思わず笑みが零れた。

とその時、少女が目を開いた。


……………………

Side:美唄


 うん……?少し寝てしまっていたみたいだ。朝から色々大変だったからちょっと疲れてしまったのかな?私は気配を感じ目線を上げる。


「大丈夫?起こしちゃった?ごめんね」


 少女が笑みを浮かべてこちらを見ていた。……よかった。目、覚めたんだ……!


「いえいえ!だいじょうぶです……!よかったぁ……!このまま目が覚めなかったらどうしようって……」


 目尻に涙が滲む。流石に泣いたら驚かれてしまう、我慢しなきゃ……


「私、溟路 美唄って言います。美しい唄と書いて””みうた””です。」

「あたしは高梨 琴莉たかなし ことり、よろしくね。ところでどうしてこうなってるの?」

「えっと……朝、琴莉さんが通り魔に襲われて……大怪我をしちゃって、それの治療の為に病院で手術があって、それで……」

「あー、あたし刺されちゃったのか、学校とかはどうなってるの?」

「私と琴莉さんはショックが大きかっただろうとの配慮で1週間お休みです。一応、通り魔の男は周囲の人が取り押さえて現行犯で逮捕されているので、もうだいじょうぶです。」

「よかった。今も逃げてるよって言われたら泣いちゃったかもしれないや。」


 あはは〜と琴莉さんは力なく笑う。こんなことがあったら誰だってそうだろう。私なんか家から出れなくなってしまう。


「あれ?はどこも怪我してなさそうだけど如何して病院に?」

「あ、琴莉さんの付き添いと……あと私の血液Rh陰性なので輸血のために一緒に来た感じです。えっと……みうちゃん?」

「美唄ちゃんだからみうちゃんだけど……」


いやだった?と少し不安げに揺れながら気遣ってくれる。


「ぜんぜん、ただ私今まであまり友達が居なかったのでちょっと驚いちゃいました。」

「そっか!それなら良かった……!あたしのことは琴莉さんじゃなくてコトリとかでいいよ!」

「じゃ、じゃあ……コトちゃんでおねがいします。そっちの方がお揃いみたいで嬉しいです。」


本音と建前が半々くらいだ。私には突然下の名前を呼び捨てする度胸はないのだ。


「いいよーところでRh陰性なの!?じゃあ……もしかして、」

「はい、私の血液を提供させてもらいました。」

「そっか、なんか不思議な感じ……みうちゃんの一部があたしの中を流れているんだ……こんな可愛い子と血を分ちあったなんてなんか嬉しいね!」


 可愛いと言われて心が弾む。しかしこんなちんちくりんで子供っぽい私よりもコトちゃんの方が綺麗で可愛いとも思う。

少し紅みを帯びた瞳、美しくシルクのような黒髪のロングヘア。健康的に少し日焼けをした小麦色の肌、モデルのようにスラリとした体型に思わずため息が出てしまう。


「琴莉さ……コトちゃんもかわいいですよ?モデルさんみたいな感じで憧れちゃいます……」

「またまた〜そんなお世辞を言っても何も出ないぞー」

「本当ですもん!むぅ……」


 そうして、私とコトちゃんは色んな話をした。私が実は遠くから引っ越してきて一人暮らしをしていること。友達作りが苦手で学校が不安だったこと。コトちゃんも親が海外に赴任していて一人暮らしをしていること。他愛のない話をしていたら日も落ちいつの間にか面会時間の終わりが近づいていた。


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