第5話

「おお、この中にあいつの情報が……!」


「あるとは限らないってば! 見覚えのあるものがないかなって確認だけ」


次の日、アヤメさんからもらった候補者リストをさっそく琥珀に見せた。

何か思い出したりしないだろうか、という俺の淡すぎる期待だ。


だが特に新たな発見はなく、琥珀は唸りながら首を振った。



「思い出せんな……」


「しょうがない、一つ一つ当たっていくしかないか」



諦めた俺は覚悟を決める。

この件数を回るのにかなりの交通費がかかるが、やむを得ない。



「解決したら、ケーキの一つでも奢ってもらおうかな」


そう冗談めかして琥珀を見る。

琥珀は切れ長の目を見開いて固まっていた。



「えっ、ちょっと冗談だよ? おーい」


思わぬ反応にビックリして、目の前で「やだなぁ」と手を振る。


だが琥珀の口から出たのは、予想外の言葉だった。




「……いる」


「え?」


「あいつが、いる! 窓の外に気配がする!」


「あいつってまさか、探してた子?」



琥珀の視線を追って、窓の外を見る。

植え込みの影に隠れていたが、セーラー服のようなものがチラチラと歩いていくのが見えた。



「いた! ……あれ、でも琥珀が見たのは五十年前……」


――だから、あの子は違う。


そう言おうとした瞬間、琥珀が俺の肩を勢いよく掴んだ。



「頼む! あとを追ってくれ! 私はここから動けない!せっかく……せっかくそれっぽい者を見かけたのだ! こんな機会を逃したら……!」



『また、約束を果たせない』――彼の必死な琥珀色の瞳が、そう訴えていた。




「……分かった、待ってて!」


反射的に答えた俺は、弾かれたように走り出した。

『図書館の中を走るな!』と司書の怒鳴る声が聞こえるが、お構い無しで外に転がり出る。

遠くにセーラー服の背中が見えた。




「待って!」




無我夢中で走り出す。

残念なことに運動神経は良くないので、息を切らしながら惨めなフォームですがり付く。

彼女かどうかは分からない。



だけど、聞きたかった。




あの約束を、夏休みが終わらない理由を。



信じたかった。




彼らの不確かな関係の中に、確かな繋がりがあることを。




「止まれー!」


なりふり構わず叫ぶ声が、住宅街で響いた。

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