第4話 時のながれに
僕は丘の頂上を目指して上っていく。
僕の私書箱には、ラティスから到着日時がクローズされた、
いつ来たか分からない、一本の短信が届いていた。
『あなたが帰ってきた時、レへタの丘に来て欲しい。
そこは、顔認証システムでタイムカプセルが開く場所がある。
あなたへの答えはそこにあるわ。』
貼付された、地図情報を頼りに、今日ぼくは来ている。
地球時間の300年にわたる想いに、決着をつけなければならないと思うと
どうしても足が重くなる。
違う、慣れない地球の重力のためだと、強がってはみる。
「ラティス!!!」
そこには、僕が一番逢いたい人が、蜃気楼のように佇んでいた。
「おかえりなさい、アマト。私はホログラフィーでも、アンドロイドでも、
クローンでもないわ、本物よ。」
僕の心が追い付かない。
「私は、あのあとすぐ人類初の、亜光速船の宇宙飛行士になったわ。」
「相対性理論の時間の遅れか!」
感情が僕に追い付いてきた。僕の体に意思が戻る。
僕はラティスの元へ駆け出す。
抱きしめる。キスをする。僕はラティスの暖かく優しい体を、
かぐわしい香りを、僕のものとする。
「あいたかった。」
「愛しているよ。」
「もうはなさない。」
僕の口から、そのような陳腐な言葉が、何度も転がり出る。
彼女の口からも、同じような言葉が転がり出たが、
僕の耳はとらえていない。
情熱の時間が過ぎ去った後、ラティスは、僕の耳元で囁く。
「あなたの帰還時間に合わせて、亜空間飛行を調整したわ。
本当は、肉体的年齢では8年くらい差があるかしら。
女性のアンチエイジングは究極まで進歩して、不老の時代がきたと言われているわ。だから18歳当時の外見を、私はあなたのために、維持しているの。」
僕は何とも言えない嬉しさにつつまれ、彼女を全力で抱きしめる。
急にラティスは、真顔に戻り、凛々しく、ぼくに宣言した。
「ラファイアさんという
あなたの愛をかけて、あなたが死ぬまであなたの横で、
私と勝負したいそうよ。」
「私はその勝負、受けてたつわ。」
時のながれに 稲の音 @inenooto
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