第2話 時のながれに
その手紙を受け取って、僕はすべてのSNSで彼女と連絡を取ろうとしたが
無駄に終わった。
彼女は、すべての連絡手段を断ち切っていたからだ。
その彼女の覚悟を知った僕は、太陽系外惑星への旅の同意書にサインをした。
明日は冷凍睡眠にはいるという前日、青い地球を宇宙船の窓から見ながら、
僕はやっと、彼女に、簡単な手紙を書いた。
『 愛するラティスへ
君と過ごした時間は、二度と味わえない、かけがいのない宝石のような
ものだったよ。
今でも、君が僕の傍らにいないのが、信じられない。
けど、これは現実なんだ。僕は君の想いと夢を携えて、明日旅立つ。
ラティス。国連がこのプロジェクトに参加する乗員のために、無期限の私書箱を
用意してくれるらしい。
君の人生の黄昏時に、{アマト。私の人生は幸せだったよ。}という手紙を、
僕の私書箱に送っておいて欲しい。
そういう人生である事を、祈っている。
君の僕への想いより、遥かに君を想うアマトより。 』
・・・・・・・・
149年の片道の航海のうち、何年かは緊急事態に備えて、誰かが起きておかないといけない。
僕の順番は、船内経過時間123年~126年の間だった。
船内AIラファイアに起こされた時、僕の相棒は起きてこなかった。
「アマトさん。船内の乗員の内76名は、冷凍睡眠装置の不具合や、隕石衝突時の
修理のための船外活動で亡くなりました。」
「だから、私ラファイアは、特殊事態対処システムA-4により、亡くなった人の
順番では、代わりに誰も代員として起こさないというシステムに、
移行しています。」
「そして11名は単独の航海に耐えきれず、精神の異常をきたされましたので、
宇宙船保護規定45-41により、処分させていただきました。」
「つまり3年間は、起きているのは、僕1人と言う事で、狂ったら安楽死させてくれるというわけか。」
僕は、予想された中でも最悪に近い状況が起きていた事に気付かされた。
「では、ラファイア。僕宛に何か通信はきているか。」
「すいません。当初よりプライベートな通信は遮断されています。」
「そんなバカな!」
「ホームシックを起こさないとのためと、指令書には書いてあります。」
「それに現在、隕石衝突により長距離用の発信はできますけど、
受信はできません。」
・・・・・・・・
一時の激情が過ぎ去った後は、残ったのは、ただ孤独な宇宙だけだった、
ラファイアには、いろいろな文学や映画などがデーターとして組み込んであったが
孤独の恐怖を埋められるものではなかった。
わずか一ヶ月で限界に達しようとした時、ラファイアから提案があった。
「アマトさん。精神ストレスが限界値にきていると、私ラファイアは
判断してます。」
「処分するならしてくれ。」
少しの沈黙が船内にはしる。
「ここで、私からアマトさんに提案があります。」
「なんだ?」
「アマトさんは、ラティスさんという女の人のデーターを、非常に多く持ち込んでいましたね。」
「そのデーターをもとにして、私がラティスさんの立体映像をつくります。
それに、アマトさんが経験した思い出を、話して欲しいのです。
私は、それから計算して、ラティスさんの仮人格を作り出します。」
目の前にラティスのホログラフィーが現れる。思わず出た涙が止まらない。
嗚咽が止まった時、僕はラファイアの提案を受け入れていた。
気付けば、僕は思い出す限りの事を、目の前のラティスに話していた。
一回話した事は、彼女は絶対忘れなかった。僕はこの遊びに夢中になった。
2ヶ月もしないうちに、目の前のラティスは、彼女だったらこう言うだろう、
こう返してくるだろうという事を、ほぼ完璧に、本物のラティスと
同じ反応をするようになっていた。
ラファイアも、自分の仮の姿ー白金の瞳に髪の超絶美人ーの、
フォログラフィーで、僕の前に現れるようになっていた。
「アマトさんの性格も計算しました。相手の方が超絶美人の女性だと、
恋愛感情はおろか、敵意すらもてないという事ですね。」
「これをヘタレというんですか。ただアマトさん喜んでください。
将棋でグランドマスターと言われる人と勝負して勝つ、1万倍以上の計算を
してアマトさんのヘタレへの対抗策を構築しましたから。」
そう、得意に話すラファイアに、天然という概念を教えてあげた。
「天然ですか・・・・。」
ラファイアは、人間の僕からみても、一日ほど落ち込んでいたが、
恐らく、天然の概念を計算し尽したのだろう。
その後は、今までどおり、僕に接してくれた。
僕は、もし彼女が飛行士として、一緒にこの船に乗り組んだらに訪れただろう人生を
ラファイアの力を借りて、バーチャルリアリティーとして
宇宙船内に構築していたのだった。
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