第2話 俺に惚れないわけある?!
その白い手紙の中には、こう書いてあった。
『朝日くんへ 話したいことがあるので、放課後屋上に来てください』
なんとも簡潔な文章に唖然としてしまう。今までには無いタイプのラブレターだ。
(どことなくお堅い文章の上に、すげぇ短い。なんか、ラブレターらしくねぇな……)
しかし心和と俺の接点はほぼ無いに等しい。確かに同じ保健委員ではあるが、委員会報告をちょこっとするくらいで、雑談などの会話は皆無。そんな相手のことを、普通好きになるだろうか。
「惚れたきっかけはなんなんだ?考えられる点としては、顔が良くて成績優秀で運動神経抜群でサッカー部で生徒だけじゃなく先生からの評判もいいことくらいだけど……ってあれ?惚れる要素しかなくね?」
結論、一目惚れ。やはり俺の前では何人も無力ということだ。果たして彼女がどんなテイストの告白をするのか楽しみである。この好奇心は放課後までとっておこう。
「あの、私朝日くんのことが好きなんです!付き合ってください!」
「私、朝日くんが好き!私と恋人になって」
「朝日空様。貴方は私の心を盗んだ大泥棒です。責任取って誓いのキスを……」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き愛してる愛してる愛してる愛してる」
「ごめんなさい!」
様々な女子の多種多様な告白を、全て一蹴。断わりはするものの、やはり好意を向けられるのは素直に嬉しいし、相手がどんな告白をしてくるのか、それを予想するのもまた楽しい。いうなれば、俺は告白を味わっている。
「さて、本日のメインディッシュを頂くとしようか」
心和の待つ屋上へと向かう。彼女のことをよく知らないため、どのような告白か予想がしづらい。それもまたいとをかし。
灰色のドアをくぐると、穏やかな風が吹き付ける。頬を掠めるそれは、暖かい。
そして、屋上の中央。一人の少女が立っていた。風になびく蜂蜜色の髪が、夕陽の光を纏って艶やかに煌めく。
「心和さん……?」
心和はこちらの声に気づき、ぺこりとお辞儀する。
「すみません、いきなり呼び出して」
「いや、大丈夫だよ全然。それより、話したいことって?」
本当は話の内容など分かりきっているのだが。心和は少し下を向きながら、目をちらちらと動かしている。なるほど、予想よりも初々しい反応だ。
「あの、私……その……」
俯きながら戸惑う心和。俺は言葉の続きを、静かに待つ。
心和は小さく口を開くと、
「朝日くん。私、あなたのことが……」
と言いかけて、再びの間。頑張れ、初めはみんなそんなもんだから!緊張して声とか震えちゃうもんだから!と心の中で激励する。
しばしの沈黙。じっと、言葉の続きを待った。ふと、お互いの視線が絡み合う。
すると心和は意を決したように、口を開いた。
「私、朝日くんのことが―――――――――生理的に無理なんです」
………………………おや?なんか今幻聴が聞こえたぞ。おかしいなぁ、おかしいなぁ。
「えと、心和サン……?」
「告白だと思いました?期待させてすみません。でもどうしても言いたくて」
いや待て、落ち着こう。冷静に、もう一度頭の中で考えを整理しよう。
まず、朝登校したら下駄箱の中に心和からの手紙が入ってて、手紙には話したいことがあるから屋上へ来いって書いてあった。手紙の通り屋上へ行ったら生理的に無理って……え?
「あの、どうしていきなり……そのような……」
挙動不審になって別人みたいな喋り方をしてしまう。落ち着け、俺。いつものテンションを取り戻せ。
「もう見るに耐えなかったんですよね。女子の取り巻きと戯れたり、毎朝下駄箱に入ったラブレターの数数えてニヤケたり、人の告白に一々点数つけたり。なので保健委員、別の人と変わってくれませんか?正直、一緒に委員やるのきついです」
「ちょ、ちょっと待っ」
「きっと言わないだけで私と同じ考えの人は居ると思いますよ?」
「なにか誤解してるって。一旦」
「だからこれは嫌がらせです。今まで散々いい思いしてきたんでしょうけど、こんなこと初めてですよね?ざまあ見てください」
「俺のこと嫌いなのは分かったから」
「話は以上です。では、さようなら。自称モテ男のナルシストくん。委員会の件、考えといて下さいね」
そこまで言うと、心和は屋上を出ようとする。
俺としては、このまま話を終わらせる訳にはいかない。こんなの、メインディッシュにゲテモノが出てきた気分だ。今更取り繕ってもしょうがない。思い切り息を吸って、彼女の名を叫んだ。
「おい心和!勝手に逃げようとしてんじゃねぇ!」
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