我々が持っている武器

 佐田達が元来た道を引き返し、すずりの家に到着すると、前には見覚えのある黒いマークIIが停まっていた。明るい陽の元ではより一層、クリアーに薄汚れ具合を認めることができた。未舗装の道を走る時に舞い上がる土煙が主たる原因のようだった。窓には黒いフィルムも貼ってあった。


「やべーやつじゃん」


 佐田が家の前を素通りして、ブロックを一つ曲がった所で停めた。


「おい、あれはいるな」


「居ますね」


 拓も同意した。怖れなど全く無いような口ぶりで。雨ですね、のイントネーションで。


「居ますね、じゃねえんだよ拓君」


 佐田が言った。


「俺たちの計画じゃ、すずり姉さんの家に戻って『一緒に逃げましょう』ってやるつもりだった。そうだな? 姉さんの事情もきっと色々あるから、あれやこれや言ったらアダルトビデオの売上金、800万と、パケの売り上げ300万、合わせて1100万、小銭を合わせれば1114万5千492円をチラつかせて、これで何とかなりますから!って土下座して、そうだよ土下座だよ、そんでこの白バンに乗車おん奉られる次第だったはずだよな?」


 拓が頷いた。


「しかし今みた状況だと、非常にヤバい。タコと黒服、姉さんの家にいるぞ。わざわざラスボスがいる場所に赴く勇者はゲームだけだ。現実は、命は一つしかないし、もっと上手い方法も沢山ある。そうは思わないか? 具体的には警察に通報する」


「僕たちも捕まってしまう」


「分かってたよ、言ってみただけだ」


 佐田が混乱していた。


「すずりさんも捕まってしまって、後から酷い目に合うかも知れない」


「そうだな、うん、分かってるよ」


 佐田が車のエンジンを止めて、拓が後ろの席へ移った。


「乗り込むしかねえな。あー、やだやだ。もうさ、帰りたいよ俺は。ヤクザに喧嘩で勝てる訳がねえじゃん。喧嘩なんて俺した事もないしさ。生粋の平和主義さ、この佐田君は。子供の頃から人を殴った事なんかただの一度もない。お前は……ある訳ねぇよな」


 運転席で低い天井を仰ぐ。


「どうすっぺよ」


「武器を探す」


 拓がゴソゴソと後ろの作業場を漁った。


「まず、お金」


 デニムのベルトに100万円の束を五つ挟む。


「それと、銃」


「銃!?」


 佐田が飛び上がった。


「なな、何を言ってるんだ? そんなのある訳ないだろ?」


「これ」


 拓が箱を佐田に差し出した。少し値段が高めの薄青色をした洋菓子の缶で、受け取るとズシリと重かった。


「おいおいおいおいおいおい」


 佐田に箱を渡すと拓は武器を漁る作業に戻り、佐田は一人でその箱を開けた。黒々とした銃が「どうも」という風にぴったりと箱に収まっていた。


「拓くん」


 佐田が平坦な声で拓に声を掛けた。


「これは一体何かね」


「銃」


「それは分かる」


 佐田が普通に言った。


「これは銃だ。それは分かる。うん。銃、だな」


 佐田は混乱しつつ、辛うじて


「どこで拾った?」


 と疑問を口に出した。


「分からない。DVDの料金の代わりにって、ちょっと前変な客に渡された。いらない、金じゃないと困るって言ったんだけど、話が通じなかったし、次の予定もあったから、仕方なく受け取った。開けたら銃だった。客はいなくなってた」


 佐田が箱から銃を取り出してまじまじと検分した。シリンダーが回転するタイプの銃で、ずしりと重い。おもちゃの銃のようにサイドの突起を前に押し込むと、シリンダーが脇に倒れ、弾丸らしきものが二発装填されていた。そのまま恐る恐る元に戻す。


「俺の知ってるおもちゃの銃より、ずいぶん本物志向みたいだ」


 ヤバいやつを拓が摑まされた、と佐田は理解した。


「まあ、無いよりはマシだろう。脅しに使えるかも知れん」


「あと、鋏」


「俺、そっち」


 佐田が鋏を受け取り、銃を拓に手渡した。


「あと、鉄のかたびらと革の小手、鉄のヘルメットがあれば有難いんだけどね」


 拓が工事用の黄色いヘルメットを差し出した。赤い三角ポッドもある。


「拓君、これから何か貰ったり拾ったりしたら俺に報告するようにしてくれよな」


 佐田が溜息をついた。

















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