第66話 管理者⑥

 四季たちを日本へ帰すための準備を進める。


 リンから先払いしてもらったクエストの報酬である【スキルクリエイション】を駆使して、転移者たちのスキルと記憶の一部を削除していった。


 そしてクリスに事情を話したところ、スキルを所持したまま帰還はできないと知った彼はネテスハイムに残ることになった。


 なので前世のクリスを彼の記憶から引き出してホムンクルスを作製する。


【スキルクリエイション】を使えば姿形から何もかも一切合切を完全制限することも容易だった。


 同様の方法で榊原のホムンクルスも完成させる。


 残すはディアナ・ムーサの暗殺だけだ。


「【森羅万象】で元ディアナ・ムーサの居所を調べてくれユラン」


「ヴォルフ帝国カール選帝侯領ギフテンブルグに滞在しています。

不滅隊隊員モニカ・レマーの身体を乗っ取っています」


 ユランは即答してきた。


 この世界の管理者となって既に一度使用しているからだろうか。


「奴隷王への【憑依】に失敗して、

彼同様不死の身体を持つレマーへ標的を移したようです」


 どうやら過去の出来事さえも知覚できるようだ。


 もし普通の人間が【森羅万象】を使ったら一瞬で脳が焼き切れてしまうだろう。


「何かあれば念話で連絡する」


 俺は【スキルクリエイション】で創った転移で現地へと飛んだ。







 ギフテンブルグへ到着しユランに道案内されながらディアナ・ムーサの元まで向かう。


 目的の場所はすぐ近くだったので歩くことにした。


 帝国の街はどこもそうだが、建物が石造りのため灰色が目立つ。


 落ち着いた雰囲気といえば聞こえはいいがどこか哀愁を感じさせる情景だ。


「ここの宿屋か」


『二階の一番奥の部屋です』


 逃げられては元も子もないので【隠密】【ステルス】【気配遮断】【魔力遮断】をこれでもかと使用する。


 そのまま受付を素通りして階段を上り部屋の前まで来た。


『ここはヨルに任せて欲しいのです!

今度は失敗しないのです!』


 そういえば以前ディアナ・ムーサの暗殺をヨルに指示していた。


 きっと名誉挽回の機会が欲しいのだろう。


『わかった。ヨルに任せる。

だけど今回は確実に始末してね』


『了解したのです!』


 俺の影から飛び出してきたヨルはついと敬礼して、影移動で室内へと侵入していった。


 「ワルプルギスの夜!」


 ヨルは間髪入れずにディアナ・ムーサを固有結界へと引き摺り込んだ。







「!?ここは……固有結界か!?」


「ディアナ・ムーサ!……いや!モニカ・レマー!

んー……、あ!おい榊原!

ここで会ったが百年目なのです!」


 闇の中からぬっと顕われたヨルに困惑するディアナ・ムーサだったが、榊原の名を出された途端目付きが変わる。


「貴様。ディアナ・ムーサの身体を殺した奴か。

そしてピリオッドの使い魔の精霊擬きだったな。

そのお前がなぜ私の名を知っている」


「お前がそれを知る必要はないのです!

さあ!今日こそお前を始末するのですよ!」


 ディアナ・ムーサは歪な笑みを浮かべる。


「私を始末する?

お前はレマーの名を出したな。

ということはこの身体が不滅隊隊員のものだと知っているわけだ。

にもかかわらず不死身の私を始末するとは大言を吐くものだな」


 呵々大笑するディアナ・ムーサにヨルは言い放つ。


「これより【魔女裁判】を執り行う」


 いつものふざけたヨルの口調は鳴りを潜め冷徹に申し渡した。


 ディアナ・ムーサが気付いた時には既に手枷で拘束され異端審問にかけられていた。


「なんだこれは!?

ス、スキルが発動しない!?」


 異常を認識したディアナ・ムーサは力ずくで手枷を外そうと藻掻く。


「無駄です。

この結界内では魔女以外スキルの使用は認められていません。

例え魔女であったとしても、

【魔女裁判】にかけられた者は全ての異能を封じられます」


「ふん。それがどうした」


 居直るディアナ・ムーサ。


「私が不死身であることに変わりはない。

殺せるものなら殺してみたまえ」


「抗弁がないようなのでこれより判決を言い渡します。

あなたは神殺しという大罪を犯しました。

その罪は魂に刻まれ決して贖われることはないでしょう。

よって被告人ディアナ・ムーサを火刑に処すものとする」


 直後ディアナ・ムーサは火柱に包まれた。


「ああああ!

魔法耐性が無効化されててているううう!

熱い!熱い!いいいいいい!」


 焼け爛れた皮膚は炭化するがたちどころに再生してはまた焼かれていく。


「あなたの不死性はスキルによるものではありません。

よってあなたに死が訪れることは未来永劫ないでしょう」


 すでに声さえ発することができないディアナ・ムーサは懇願の眼差しを向ける。


「以上で【魔女裁判】を閉廷します」


 二人の距離が徐々に離れ始める。


 ヨルはワルプルギスの夜の彼方へ遠ざかってゆくディアナ・ムーサをしばらくの間眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る