第63話 管理者③

「お、俺!?」


「はい。マスターのスキルQ&Aが制約の錬金術師です」


 皆の視線が集まる。


「たしか頭の中で話しかけてくるスキルだっけ!?」


「え!?リンがドットさんのスキル!?」


 彼らが困惑するのも致し方ない。


 何しろ当の本人である俺が一番驚いているのだから。


『Qちゃん説明を求む!』


『ユランが言った通りの意味だよ。

私は猶本凛。制約の錬金術師その人だ。

詳しい説明は実体化した後でね』


 元ドットの分身体は自らの正体を誰にも告げるつもりはない。


 既にドットとは別の個体であり、猶本凛として生きてゆくと決めている。


『ちゃんと話してもらうからな!

で、スキルを実体化とかできるのか?』


『ドットはまだ賢者の石の力を理解していないようだね。

「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」

誰が言ったのかは忘れたけど、

賢者の石はこの言葉を体現したような存在だよ。

あ、依り代は【万能細胞】でお願い!

ドットが失敗してもこれさえあれば何とかなるからね!』


『というか、スキルを錬成ってどうやるんだ!?』


『重要なのはイメージだよ、イメージ。

今までと何も変わらないよ』


 自分が錬成されるというのに随分とお気楽に言ってくれるものだ。


 「集中したいからみんな少し離れていて」


 俺は両手に賢者の石と【万能細胞】の肉まんをもって目を閉じた。


 具体的なイメージが湧かなかったので、ステータスのスキル欄にある【Q&A】に意識を向ける。


『うん。いい感じじゃないか』


『うるさい』


 スキル【全集中】を発動しゾーンに入ったのを確認して唱える。


「制約の錬金術師!

三百年の眠りから覚醒し顕現せよ!

錬成!!!」


『寝てないけどね』


 いつにも増して規模の大きな錬成陣がその姿を現した。


 そこからから発せられる赤い閃光は幾重にも重なって陣の中央へと収束しながら伸びていく。


 そして、天を貫いた。


 





 光が収まる。


 目の前には、まるで白衣でも着こなしているかのように、高校の制服の上から魔術師のフード付きローブを身にまとった日本人の少女がたたずんで微笑んでいる。


「Qちゃんなのか?」


「ようやくこうして会えたねマスター」


 いつもの丁寧な口調では既になくなっている。


「そして、イザナクエスト⑥/降臨の儀をクリアしたよ。

次のクエストも受注しているけどその話は後程にしようか」


 彼女がもともと自分の分身体であるとは知らずについつい見惚れてしまった。


 俺が制約の錬金術師の正体を知るのはもっと先の話である。


「お、おう!

しかし困ったな……、これから君のことを何と呼ぼうか……。

Qちゃん?猶本さん?リン?制約の?」


「四季は私をリンと呼ぶから、ドットもリンでいいのではないか」


「リン!」


 駆け寄ってきた四季はそう叫ぶとリンへと抱き着いて嗚咽を漏らしている。


「うう……。

ずっと……、ずっと待っていたのよ!」


「ごめんってば四季。

でも約束は守ったでしょ?」


 こうして二人は三百年ぶりの再会を果たした。


 制約の錬金術師から事情を聞くのはしばらくしてからでもいいだろう。

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