第59話 制約の錬金術師⑧

 古龍は討伐された。


 そしてあの少年を殺しても身体以外再生されることはないだろう。


 まったくこいつらときたら無駄な努力をしたものだ。


「聞けお前ら!

賢者の石など無くても日本へ帰れるんだ!

私の【時空魔法】の転移でなら世界を渡れる!」


「本当か猶本!?」


 田辺は素直に驚いているが榊原は不信がっている。


「ならどうして今まで黙っていた?」


 私たちを異世界へ転移させたのは日本の管理者だ。


 まさか彼の了承を得るのに難儀していたとは言えない。


「それはつい先程習得したからだよ」


 これには四季も言葉が出ないようだ。


「猶本!俺たちをすぐに日本へ帰してくれ!

こんな何もない暮らしにはもう耐えられない!

テレビもネットもマンガもマックも何もかもが無い!」


 辻がこれまで腹の内に溜め込んでいた叫びは彼らに共通する思いだろう。


「ただし日本へ帰すのには条件がある。

皆にはこの世界で得たスキルや魔法を手放してもらう」


「……」


 どうした?なぜここで黙り込む?


 予期していなかった彼らの反応に四季と顔を見合わせる。


「そ、それはちょっと……」


「なんで!?理由は!?」


 辻と田辺が難色を示す。


 ようはスキルや魔法を日本へ持ち帰り俺強したいというわけか。


「それをなぜお前が決める」


 榊原の言うことはその通りだと私も思う。


 しかしそれが日本の管理者と交わした約定なのだから仕方がない。


隷属の頸木フルドミネイション!」


【状態異常無効】の効果が秋山の隷属魔法防いだ、が……。


「くっ!?」


「四季!」


 四季の首には件の首輪がめられていた。


 まさかこのタイミングで仕掛けてくるとは思わなかった。


「くそ!猶本には弾かれたか!

まあいい。

神崎を解放してほしければ今すぐ俺たちを帰還させろ!」


「どうする猶本?

こちらは秋山以外戦闘職だ。

錬金術師のお前だけで私たちと一戦交えるか?」


 どうやら錬金術師をただの生産職だと思っているらしい。


「四季は下がっていて」


 私はこの場を制圧することにした。


「それがスキルや魔法を保持したままお前らを帰せない理由だ!」


 攻撃魔法対策に闇球を創り出して周囲にいくつも浮かべる。


煉獄の息吹インフェルノ!」


 以前見たことのある田辺の最大火力の魔法は闇球へと吸い込まれた。


 突っ込んできた辻の刀を即席で作った剣で応戦するが何か違和感を感じる。


 田辺のインフェルノはこの程度の威力だっただろうか。


 辻もいつもの体の切れがないようだ。


 榊原など魔法の発動を途中でキャンセルして胡乱そうな顔で手のひらを眺めている。


 よくよく闇球を見てみるといつもはまんまるの球体が少し歪んでいるだろうか。


 魔力制御が難しくなっている?


「いや。大気中に含まれている魔素が薄くなっているんだ……」


 他の者も何か感じていたのだろう。


 私のつぶやきに反応した彼らはそれぞれの武器を収めた。

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