第58話 制約の錬金術師⑦
転げ落ちた榊原の首と視線がぶつかる。
「さ、榊原……?」
これはどういう状況だ。
古龍が何かした結果なのか。
『せ、成功した……』
頭の中に流れ込んできたこの声は古龍のものだろうか。
どうやら他の者にも聞こえているようだ。
『古龍を守護しているスキルを解除したぞ!
ボーっとしてないでさっさとこいつの首を刎ねろ!』
「一の
「
辻の刀と田辺の魔法が交差して古龍の首は榊原に次いで落とされた。
「は、はは……、やってやった」
「これで日本へ帰れる……」
一仕事を終えた二人は床にへたり込んだ。
そしてそれまで冷静に古龍討伐の行方を見守っていた秋山が口を開く。
「神は死なないか……。
まさか伝承の通り本当に復活するとはな。
で榊原、具合はどうだ?」
秋山の足元にはいつの間にか苦悶して四つん這いになっている少年がうずくまっていた。
「もう【憑依】していられるのも限界だ……。
このままでは弾き出される。
死なずに身体から放り出されたら何が起こるかわからん。
は、早くこの人化した古龍にも止めを……」
【憑依】だと……、秋山の固有スキルの一つか。
四季が自分たちに宿ったスキルは強力なものだったと言っていたが、まさか神にまでその効果を及ぼすほどの代物だとは思わなかった。
それと田辺たちがディアナ・ムーサをまるで仲間のように語っていた謎も解けた。
この後秋山は【憑依】を繰り返してディアナ・ムーサになったのだろう。
ということはヨルに始末させたあいつはまだ生きているということか。
私が物思いに耽っていると、辻の刀が少年の心臓を貫いていた。
「あなたたちいったい何をしているの!
それにそんな子供にまで手をかけるなんて!」
それまで呆然と事の成り行きに見入っていた四季が正気を取り戻して叫んだ。
「はあ、はあ、神崎か。
少し来るのが遅かったようだな。
すでに古龍は殺した。
こいつの血液さえあれば猶本でなくとも賢者の石を創れるだろう」
少年からおそらく秋山に操られていたであろうユラン聖教の神官に【憑依】した榊原が苦しそうに答える。
私はすかさず血の一滴も残さずに古龍の亡骸をストレージへと仕舞い込んだ。
「そんなことをしても無駄だぞ猶本。
古龍ならここにもいるのだからな」
神官姿の榊原は少年の肩に手を置き笑みを浮かべる。
しかし少年の目は虚ろで何の反応も示さない。
「本当にそうか?
その少年に人化した古龍からは全く魔力を感じないぞ?
賢者の石の生成に必要なのは、正確に言うと膨大な魔力を含んだ血液だ。
なにも古龍の血液でなければならないわけではない。
榊原、もしかしたらお前のそのスキル【憑依】は対象の魂を自身のもので上書きしてしまうんじゃないか?」
「おい榊原!?
そのガキの血で本当に賢者の石は創れるんだよな!?」
辻がもどかしそうに詰め寄る。
「落ち着け辻!どうせ苦し紛れの強がりだ!」
「だ、だけどさ、
猶本が言った【憑依】の説明はその通りじゃないか!?」
「お前は少し黙っていろ……」
「榊原。
古龍の実体は身体と心のどちらに在ったんだろうな?
そこで突っ立っている少年を見れば答えは出ているんじゃないか?」
「……」
古龍の生まれ変わりである少年からは、氷龍のヒムロと相対した時のような威圧感の欠片も感じられない。
少年の心と魔力は空っぽだ。
実際的には死んでいるのと何も変わらない。
つまりこの世界の神は消滅したのだ。
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