第57話 制約の錬金術師⑥

 私が一瞬で賢者の石を生成してみせると管理者は目の色を変えた。


「おま!?それ賢者の石か!?

これが現在では禁制物となった賢者の石……」


 おや。この反応は取引の材料に使えるか。


「禁制物?ということはかつては存在していたと?」


「ああ。

だがそんな物が出回ったら世の中不老不死者だらけになってしまう。

それにただの鉄屑をほいほいと金などに替えられてみろ、

世界経済に与える影響は計り知れない。

だから賢者の石の生成は禁忌とされた」


 管理者は説明している間も賢者の石に釘付けである。


「そんなに欲しいなら献上することもやぶさかでないが」


「……、対価は?」


 食いついてきた。


「【健康】といくつかのスキルを所持したまま神崎四季を日本へ帰還させる。

もちろん他の者たちのスキルと異世界での記憶はすべて取り上げる」


【健康】だけでは足りない。


 それを隠蔽するためのスキルも必要なのだ。


 でなければこの管理者に露見したように、いつかは別の誰かに捕捉されてしまうだろう。


「んー。悩ましい。

バレたらヤバいが……。

しかしこの機会を逃すと……」


 ここで追い打ちを仕掛ける。


「今なら特別にもう一つプレゼント!」


 追加で賢者の石を生成して管理者の眼前に掲げる。


「あーもう!それで手を打とう!」


「まいどありー!」


 こうして無事に日本の管理者との交渉を成立させてネテスハイムへと転移した。







「リン!どこへ行っていたの!?大変なことになったわ!」


 部屋に戻ってくると四季がもの凄い剣幕でまくし立ててきた。


「いったん落ち着こう四季!

こっちもいい知らせがあるんだ」


「それどころじゃないのよ!

榊原君たちがわたしたちのいない間に古龍の討伐に向かったそうよ!」


「やられた……」


 せっかく日本の管理者を説き伏せることができたというのに。


 四季を日本へ帰還させる算段がついたというのに。


 それらが徒労に終わるというのか。


「とりあえず連中の後を追おう」


 榊原の魔力を辿るとユラン聖教国のあたりにいるようだ。


 一緒に行動しているのは魔術師の田辺に呪術師の秋山、侍の辻、それと知らない魔力の者が一人。


 秋山はセントルイーズ自由交易都市の闘技場で田辺と密会していた奴である。


 それにしても妙だ。


 たった五人でこの世界の管理者である古龍を倒せるのだろうか。


 しかし未来では制約の錬金術師とその仲間たちが古龍を討伐していたことになっていた。


「考えていたらだんだん腹が立ってきたな」


 私があんな連中の一味に数えられているのが我慢ならない。


「四季!とりあえず飛ぶよ」


 私たちはユラン聖教国へと転移した。







「榊原たちは大聖堂の奥にいるようだ」


 大聖堂の奥にある教皇の住まう宮殿から榊原たちの魔力を感じる。


 私と四季は【ステルス】と【隠密】を駆使して彼らの後を追いかけた。


 教皇の間へとたどり着いたがもぬけの殻である。


 しかし教皇の玉座の背後にはでかでかと宗教画が飾られており、そこから彼らの気配を感じる。


 絵に触れるとそのまま腕の半ばまで吸い込まれた。


「ここが古龍の棲み処への入り口のようだ」


「ええ。行きましょう」


 宗教画を潜り抜けると広々とした空間に巨大な龍が鎮座していた。


 彼らはその龍と対峙している。


 どうやらギリギリのところで間に合ったようだ。


「は?」「え?」


 直後侍の辻が刀で榊原の首を刎ね飛ばした。

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