第56話 制約の錬金術師⑤
朝目が覚めると同室である四季の姿は見当たらなかった。
彼女は一度ダンジョンに潜ると数日は帰ってこない。
戦姫というレアな職業を授かった四季は、私を除く日本から転移してきた生徒の中でも最強ではあるが戦うということしかできなかった。
他の者たちのように日本へ帰るための方法を模索するということができない。
それが負い目なのか、皆が何不自由のない暮らしができるよう金稼ぎに精を出すのだった。
「さて、私も自分の仕事をするとしようか」
その仕事とは日本の管理者との交渉だ。
まだ四季にさえ話していないが【時空魔法】の転移を使えば世界を渡ることさえも可能なのである。
ちなみに【空間魔法】の転移でそんな芸当はできない。
というのも【時空魔法】は日本とネテスハイムの境界線を越えるために、【スキルクリエイション】を使って【空間魔法】を編集して創り出した私のオリジナルスキルなのだ。
ではなぜ四季たちを日本へ帰さないのかというと、それを日本の管理者が許さないからである。
無理やり帰還させれば下手をすると殺されてしまうだろう。
二つの世界を何度も行き来している私を実際に殺そうとしてきたから間違いない。
他国の管理者とも話してみたのだが門前払いされることがほとんどで、中にはいきなり攻撃してくる者までいる始末だ。
しかし足を運ぶ回数が増えるほど日本の管理者の態度が軟化してきて、今は戦闘になることもほとんどない。
首を落としても心臓を貫いても殺すことのできない私に辟易したのか、私の誠意が伝わったのか定かではないが、最近では普通に会話する程度の間柄にはなっている。
そして今日も高校の制服に着替えた私は彼に会いに行くのだった。
▽
「はあ、またお前か。リン。
何度来ても俺の方針は変わらないぞ」
私の気配を察知した彼は気怠そうに答えた。
転移してきたところ電車内のようで、次の駅へのアナウンスを聞くにおそらく山手線だろう。
彼は眼つきが悪い以外はいたって普通の人のように見える。
初対面の時上半身裸だったのは風呂上りだったかららしい。
そう彼は人の身でありながら管理者の一柱となり、今でも人々に交じって生活しているのである。
ネテスハイムの管理者は龍だというのにこの差は何なのだろうか。
「そんなの地球に龍がいないからにきまっているだろ。
少なくとも俺は四百年程生きているが龍など見たことがない」
「四百年も生きているのか……。
ところで賢者の石のない世界で不老不死薬など創れるの?」
どうやら今日は機嫌がいいようだ。
少し世間話をしてから本題に入ればいけるかもしれない。
「そんなものを使わなくても修行をすれば歳など取らねーよ」
修行をすれば年を取らないとは暴論にもほどがあるだろう。
「だいたいお前らはスキルや魔法に頼りすぎなんだよ。
そんな誰でも使える超常の能力に依存しているうちは世界の位階も低いままだぞ?」
「位階?ランクのようなものか?
……、つまり世界はいくつも存在しランク付けされていると?」
「そういうことだ。
ちなみに地球を内包するこの世界は上から数えて二番目だな。
もっともイザナ内でのランキングだがね」
「は!?今イザナと言ったか!?
教えろ!イザナとはいったい何だ!」
「い、いきなりどうした!?
お前がイザナのことをどこで聞いたのか知らんが…まあいいだろう。
イザナとは原初の世界に棲息する生命体の一つだ。
地球やネテスハイムを含む数多の世界はイザナの体内に広がる亜空間に存在している。
謂わば我々の神といったところか」
イザナ因子。スキルや職業などの進化の要因となるもの。
イザナ内に存在するネテスハイムに漏れ出した神の細胞の一部といったところか。
まさかこんなところで世界の仕組みを知ることになるとは思わなかった。
「原初の世界か……」
「おい。変なことは考えるなよ。
俺は一度だけあそこへ足を踏み入れたことがあるが一分ともたなかった。
あれ以上あそこに滞在していたら俺は今ここにいないだろうな。
思い出すだけで身震いするほどだ……。
一瞬で恐怖や不安といった負の感情に精神が汚染されるんだ……」
最強の私(たぶん)とまともに渡り合える彼にここまで言わしめるほどの世界か……。
「ん?
【状態異常無効】を持つ私ならその原初の世界でも活動できるのでは?」
もしくは賢者の石を使ってどうにかできないか?
私は赤く輝く宝玉を眺めながらそんなことを考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます