第53話 制約の錬金術師②
場面は暗転し気付けばバスの後部座席に座っていた。
瞬時に【隠密】を発動し姿をくらます。
前方には件のトンネルが目視できる距離まで近づいており想定していたよりも時間がないようだ。
早く運転席まで行ってバスを停車させなければならない。
お揃いの高校名の入ったジャージを身に着けている生徒たちの中に四季を発見した。
彼女はこれから起こる惨事に気付くはずもなく寝息を立てている。
通路を素早く抜けて運転席をのぞき込むと、四十がらみのひどく草臥れた表情をした運転手がハンドルを握っていた。
後続する車は遥か後方を走っているいるので急ブレーキを踏んでも問題なさそうだ。
バスを停車させようとした直後異変は起きた。
(な、なんだ!?身体が動かない!?)
トンネルの入り口は目前まで迫っているが依然として身体はピクリともしない。
『異物が混じっているな』
私の行動を制限していると思しき何者かの声が頭の中で響く。
そして私たちを乗せたバスはトンネルへと吸い込まれていった。
結局四季を救うためのたった一度きりの機会を逃して、再び場景は一変する。
▽
真っ白い空間に出口は二つ。
トンネル内を亜空間にした場所といったところだろうか。
私の他にここにいるのは運転手と女生徒、そして知らない日本人と思われる男だけだ。
「で、あんたは何者?」
おそらくこいつが四季たちを転移させた張本人なのだろう。
「それはこちらのセリフだ。
お前向こうから来たんだろ?
どうやって世界を渡ってきた?
境界線を無理やり超えると、こいつらのように身体か心のどちらかが壊れるんだがな」
男はそう言って運転手と女生徒を見下ろす。
倒れている運転手の上に鬼火が浮かんでいるところをみると身体が壊れて亡くなったのだろう。
一方女生徒の目は虚ろで生気がない。
「彼らはこれからどうなるんだ?」
「女はこのまま向こうへ送る。
男は輪廻の輪に還す。もちろん向こうの世界でだがな」
男の意図が掴めない。その行いにどんな意味があるのだろうか。
「なぜそのような事をしているんだ。ただの愉快犯か?」
「俺は地球、もとい日本の管理者としての責務を果たしているだけだ」
管理者……、つまり神か……。
「自身が管理している人々を別の世界へ送ることが責務?
彼らは何か罪を犯したというのか?」
「こいつらの中に異物が混じっていた。
お前のようにな。
他の者は…まあついでだな」
「私の他にも世界を渡って来た者がいたと?」
「おそらくそうではないだろう。
ただあいつはこの世界に由来しないスキルを宿していた。
それは許されないことだ。
なぜ今まで気付かなかったのか釈然としないがな」
「……」
言葉が出ない。
それはつまり私のせいではないか。
残される妻と娘の将来を憂いて譲渡したスキルが原因だというのか。
何年もの間発見されなかったのは妻の【運気上昇】の効果だろう。
今回四季はその有効範囲から大きく離れたためこの管理者に捕捉されてしまったのだ。
私の軽率な行動が四季に災厄をもたらしてしまった。
ただ彼女たちの幸せを願った結果がこれか……。
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