第52話 制約の錬金術師①

「やっぱり女体化したか……」


 ドット本体は驚いているが、これまでの傾向からそうなるだろうことは予想していた。


 ステータスを確認してみると本体が所持していたスキルのいくつかが見当たらない。


【クエスト】【イザナ因子】の二つは【キャンセル】【制約】に置き換わっており、【Q&A】は消失していた。


 ただ【クエスト】が有していた機能のいくつかは分割され、【ストレージ】と【スキルクリエイション】が通常スキルとして派生していた。


キャンセル/指定した対象を時間を遡って消去する。


制約/制限を課すことによりスキルの効果を上方修正する。


【Q&A】が消えた件はよくわからないが、固有スキルの二つについてはある程度予測がつく。


【クエスト】はドットだけのオリジナルスキルであるため、別個体となってしまった自分には根付かず、オリハルコン製の腕輪の付加効果がスキルとなって定着したのだろう。


キャンセラーブレスレッド/自身に降りかかった災厄を解除する破邪の腕輪。


【制約】はもともと分身体に課せられていた賢者の石の使用に関する制限を補完するため、【イザナ因子】の代わりに具現したものと思われる。


 さて、ドットの分身体だった俺に起こった変化の確認はこのあたりでいいだろう。


 俺、いや今は女になったから私か……。


 私に与えれた使命は娘である四季を守ることだ。


 といっても隷属化の支配から逃れた彼女は自身の安全を確保することなど容易いかもしれない。


 では私にできることは何だろう。


(【キャンセル】……、

指定した対象を時間を遡って消去する……、

指定した対象を……、

時間を遡って……)


 彼女が転移してきたという事実自体を消去するというのはどうだろうか。


 私は四季の手を取る。


「え!?な、なに!?」


【キャンセル】を発動しようとしたが思いとどまる。


 時間を遡って過去へ戻る際にも世界を渡ることになるのだ。


 四季の身の安全が保障できない。


 そもそもこの方法で過去に戻ることができても、彼女が異世界へ転移するという未来は変わらない。


(それならば私にできることは……)


 自身の身体を使って世界を渡れるか実験して、もし過去に戻れたら娘に訪れる不幸な未来を変えるのだ。


 私に取り込まれた四季の髪の毛から彼女の情報を解析し【万能細胞】で複製する。


 四季とうり二つの姿になった私をみて周りは何をしているのだと訝しんでいるが無視だ。


 これから行おうとしていることが成功すれば説明しても意味がない。


 おそらく私という存在そのものが彼らの記憶から消去されるのだから。


 自身の胸に手を当て唱える。


「では始めようか」


 魔力が身体を循環していく。


 これまでにもこの世界のスキルシステムの誤作動は何度も目にしてきた。


 娘の姿になったのはそれを人為的に起こすためだ。


「神崎四季は異世界転移など許容しない!」


 さらに魔力を流してゆくが、あと少しというところでそれ以上入らなくなった。


 ここが日本とこの世界とを隔てる境界線なのかもしれない。


「スキル【キャンセル】を代償に術式を続行!」


 二度と使用しないという【制約】を課し強引に魔力を身体に注ぎ込む。


「デリート!」


 制約の錬金術師はこうして誕生した。


 

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