第50話 戦姫③
地上に出て人影の少ない路地裏に入った。
既に地下闘技場での騒動が伝わっているらしく、この街の警察組織でもある傭兵ギルドの憲兵たちが慌ただしく右往左往している。
俺はともかくとして四季の面は割れていることだろう。
「助けてくれてありがとう。わたしは神崎四季。君は?」
とりあえず正体は隠すことにした。
まだ心の準備が出来ていないし、いきなり君のパパだよと聞かされては彼女も困るだけだろう。
「俺はドット・ピリオッド。
君らとは別口で転生した元日本人だよ」
自身の言を証明するために日本語で答える。
「そう……、私たち以外にも存在したのね……」
「お互いにいろいろ聞きたいこともあると思うけど、
まずはこの街から出るために君には変装してもらうよ」
四季の手をとって、老化し活動を停止してしまっている細胞をリセットして活性化させる。
展開した錬成陣が彼女の足元からスキャンするように頭まで通り過ぎた。
手鏡を錬成して彼女に若返った自分の姿を見せてあげると目を丸くして矯めつ眇めつ眺めている。
「え!?え!?これがわたし!?」
若返って小躍りしている彼女は元妻に瓜二つだった。
もはやこの子が自分の娘であることは疑いようもないだろう。
「さあ、とりあえずこの街から出てしまおう」
表通りに出て城門へと向かうにつれ辺りがざわつき始めた。
「ドットさん、どうも様子がおかしいですね」
待ちゆく人々は何やらつぶやいており、中には悲鳴を上げる者までいる。
『マスター。上空に何かがいます』
見上げてもよく晴れた空が広がっているばかりだ。
(何もいないじゃないか)
直後何者かに話しかけられた。
「見知った魔力を感知したとおもえばドット・ピリオッドではないか」
「な!?お前なんでこんなところにいるんだよ!?」
騒ぎの原因はでっかい龍がセントルイーズ自由交易都市上空に浮かんでいたかららしい。
目の前には人化した氷龍が不遜な笑みを浮かべてたたずんでいた。
▽
「ん?ドットじゃないか!?」
【氷室】内に唯一ある家屋のリビングへと出た俺を見てクリスが驚いている。
俺はなぜか一緒にいた分身体と手を繋ぎ、氷龍がセントルイーズ自由交易都市にいた事情を【万能細胞】を介して理解した。
風の精霊が入れてくれたお茶を飲みながら氷龍から話を聞く。
ちなみに氷龍は何のひねりもなくヒムロと名乗ることにしたようだ。
「それでユラン聖教国に古龍がいるんだな?」
「古龍かどうかはわからんが俺の同胞ではあるな」
見方によっては【氷室】もひとつの世界だ。そしてその管理者は氷龍である。
よってユラン聖教国にいるのはこの世界の管理者、つまり神もしくは神の代行者である古龍で間違いないだろう。
「ただ、俺の同胞であるにもかかわらず弱々しい気配しか感じられないのは気になるところだ」
「それは古龍の中身が空っぽだからよ」
それまで黙って俺たちの話を聞いていた四季が口を開いた。
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