第46話 護衛任務⑤
「こいつが枢機卿だって!?
そんなわけないだろ!?
枢機卿は爺さんと昔から相場が決まっている!」
俺はいきなり現れた日本人へ対する動揺を誤魔化すように軽口を叩く。
「ビルを助けてあげてドット!
僕がいない間に怪我をしたみたい!」
「ビル?」
ティアと一緒に依頼を受けている冒険者だろうか。生きてはいるが意識はないようだ。
「癒球!」
ビルを支えている他の冒険者ごと癒球で包み込む。
時間をかけさえすれば身体の欠損さえ治すことが可能だ。
これで駄目ならエリクサーを使うしかないのだがあまり大っぴらにはしたくない。
「おお?古傷が消えたぞ……、それに疲労も抜けていく」
ビルを支えていたフランクは実に気持ちが良さそうだ。
「!?……、俺はいったい……」
無事に意識を取り戻したビルに涙を流しながら抱き着く仲間たち。
おそらく長い付き合いなのだろうが、強面のおっさんたちがかわるがわる抱擁しあう姿はあまり見たくはないものだ。
▽
「感謝するドット・ピリオッド。
まさかあの傷で後遺症も残らずに回復するとは思わなかったよ」
ビルが負傷したのは頭部だった。
この世界でも脳が傷つけば、予後にも大きなダメージを受ける可能性があることは常識となっている。
「ビルさんは俺を知っているの?」
たしか面識はないはずだ。
「王都の冒険者で君のことを知らないやつはいないよ。
なんせ史上最年少でSランク冒険者にまで上り詰めたのだからね。
ティアが、僕のご主人様は凄い、と自慢していたが想像以上だったよ」
『余計な事まで喋っていなければよいのですが』
「おいティア」
ティアは何が嬉しいのか莞爾と笑顔を浮かべている。
「……、まあいいか」
▽
俺が造った新しい街道を通って森を抜け、今はセントルイーズ自由交易都市へと向かっている。
アデーラ王国に馬を残してきたとのことだったので、馬型のゴーレムを作成して馬車を引かせることにした。
生きている馬と違い休憩させる必要もなく最高速度を維持できるので、日が昇る頃には到着できるだろう。
そして俺はというとガブリエル枢機卿のために用意された馬車に同乗していた。
(なあQちゃん、彼はどう見ても日本人だよね)
『この世界にモンゴロイドは存在しないので間違いないでしょう』
(んー、制約の錬金術師 の仲間だとすると若すぎるから別口か……)
『彼の者は賢者の石を生成しているため、不老不死薬を作成した可能性もあります』
「んー……」
「ドットさん、どうかされましたか?
先ほどから何か考え事をしているようですが」
思わず声に出てしまったが、彼と話をするいい機会ができた。
「ガブリエル卿にお聞きしたいのですが、ユラン聖教国の教皇は龍人だという話は本当ですか?」
「そういう話が出回っているのはこちらも把握していますが、ただの噂です」
『真実がどうであれ初対面の相手に本当のことを話すとは思えません』
「なるほど……、では
「……古龍、御伽噺に出てくるあの古龍ですか?」
「ええ。なんでも制約の錬金術師と名乗る人物が古龍の血液を使って賢者の石を錬成したとか」
あえてこの名を出してみたのだが、どう反応するだろうか。
「……、制約の錬金術師……、どこでその名を?」
「この本で」
俺はストレージから『転生したら錬金術師だった件』を取り出し眼前に掲げた。
ガブリエル枢機卿は突然の出来事に目を見開き驚いている。
「……、彼女はこんなものを残していたのか……」
「彼女!?制約の錬金術師は女なのか!?今どこにいるんだ!?」
彼がこの本に手を伸ばしてきたため収納する。
「……、その本には何が書かれているのですか?」
「錬金術と古龍に関すること以外は何も書かれていないよ」
「本当にそれだけですか?」
何かを探るように俺を見据えるガブリエル枢機卿。
「……、まあいいでしょう。
彼女の居所は…こちらが聞きたいぐらいですよ……」
彼は落胆した様子を隠そうともせず一旦視線を反らした。
「さて、次は私の質問に答えてもらいましょうか。
あなたは何者ですか?」
いつの間にか馬車の窓から青い朝の光が差し込んでいる。
そして、セントルイーズ自由交易都市の城壁が見え始めたとヨルから念話が届いた。
「俺はただの転生者だ」
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