第44話 護衛任務③

「くそ!逃げられたか!」


 馬鹿息子は忌々しげにがなり立てた。


 僕は発光中に集めた石ころを投げつける。


「えい!や!死ね!」


「痛!くっ!止めろ!」


 騎士たちは僕を捕まえようとするが、【舜歩】で軽々と躱してゆく。


 ちなみに【舜歩】と【韋駄天】の違いだが、【韋駄天】は走っている間しか使うことはできない。


 その代わり【舜歩】より速く移動できる。ただし小回りが効かないため両者は使い分けが必要だ。


「じ、次期領主である┅痛っ┅、

このダニー・ボッコ様┅痛っ┅、

おい!石を投げるな!」


 逃げている間中石ころを馬鹿息子の顔目掛けて投げ付けていたため、顔中ボコボコで至るところから血が滲んでいる。


「もういい!殺せ!」


 何を言おうとしていたのかは知らないがもういいらしい。


 丁度手持ちの石も切れた。


 ダニーの元まで【舜歩】で近づき馬の尻を蹴飛ばすと、一声嘶き主を乗せたまま走り去ってしまった。


「あアァぁー!」


「「「「ダ、ダニー様ー!?」」」」


 ダニーの後を追いかけて行ったのは騎士の半数ほどだろうか。


 しかし相変わらず僕は取り囲まれたままだ。


「ねえ騎士さん。

ここの領主様は自分の息子が盗賊紛いのことをしているのは知っているの?」


「黙れ!貴様には関係のないことだ!」


「確かに僕には関係ない。

でもあなたたちはそれでいいの?

あのダニーとかいう奴が次の領主なんでしょ?」


「いいわけないだろ!

お館様さえ快復なされば、あんな馬鹿に後は継がせない!」


「そうだ!

もともとお館様は跡継に弟のケニー様を指名しておられた!」


「だが┅┅、

お館様はもう何年も病に臥せっておられる┅┅」


 騎士たちは剣を下ろし悲嘆に暮れている。


 どうやら彼らもダニーに付き従うのは本望ではないらしい。


 (んん?ダニーの父親は病気で、話を聞く限りまともそうな弟がいる?)


「ねえ、この中に誰か【鑑定】を使える人はいる?」


「【鑑定】スキルなら私が所持しているが?」


 僕はご主人様から持たされているエリクサーを、影魔法Lv1で覚えた【影収納】から取り出し渡す。


「これあげるから領主様に飲ませてあげて」


「エリクサー┅┅、ほ、本物だ┅┅」


「なんだと!?間違いないのか!?」


「ああ。間違いなく本物だ。

しかし、こんな高価なものに見合うだけの対価を支払う能力はない┅┅」


「この薬の出所を秘密にできるならただであげる。

あ!ダニーをボコボコにした件も不問にしてね!」


「そ、そんなことでいいのか!?

お館様にはそのように伝えると約束しよう」


 なんとか穏便に事を済ませた僕は、森に入り北へと駆け出した。







 真っ暗な森の中をひたすら駆ける。


 常時【韋駄天】を発動しているため、小回りが効かずに木を薙ぎ倒しながら進んでいる。


 そして、僕はいつの間にか森を抜けて、おそらくセントルイーズ自由交易都市へと続いているであろう街道に出てしまった。


「これはあれだね。

追い抜かしちゃったね。

んー、ここで待っているべきか┅┅、

引き返して皆を探すべきか┅┅」


 探しに戻るのは吝かではないが、僕の【空間把握】の効果範囲は狭い。


 来た道を【韋駄天】を使わずに戻れば、高Lvの【気配察知】持ちのカミラなら僕を見つけられるかもしれない。


「でも下手に動いてすれ違う可能性もあるか。

┅┅、とりあえず一眠りしようかな。うん」


 よくよく考えてみると、こんな真っ暗闇な森の中を夜通し移動するとは思えない。


 皆はとっくにどこかで夜営していることだろう。


 ここは朝が来るのを待つのが正解かもしれない。


 僕は【影収納】から街道脇にベッドを出して布団の中に潜り込んだ。






 古龍の居場所の捜索をシスターズに任せていたところ、ヒナタがとある情報を仕入れてきた。


 それはユラン聖教国の教皇は龍人であるというものだ。


 ヒナタによると噂レベルの話らしいのだが、確認だけはしておこうという話になった。


 問題は、人前にその姿を現したことがないという教皇をどうやって調べるのかだが、それは教国に着いてから考えることにした。


 俺はいつもの通り、風球を利用して空を滑空するように移動している。


 空中で風球同士を接触させて、高度を維持するという方法を編み出してからは、その移動速度は大幅に向上した。


「お、ティア発見」


 俺と眷族たちは魂が繋がっており、そのため互いの位置を把握することができる。


 ティアの魔力を近くに感じたから来てみたのだか┅┅。


「なあヒナタ、ティアは護衛任務中じゃなかったっけ?」


「そのはずなのだが┅┅」


 依り代のリングから出てきたシスターズも戸惑っているようだ。


 ティアはベッドの上で幸せそうに寝息をたてている。


 もちろん護衛対象も他の冒険者の姿も見当たらない。


「ティア起きろ!おい!」


「Zzz┅┅」


 布団を剥ぎ取り、なんとか叩き起こすことに成功した俺たちは、ティアから事情を聞き出すのだった。

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